Chapter 57
まだ高橋美咲を忘れられない
「結婚したって?」桜井奈緒は思わず声を上げた。
前に高橋美咲が男と一緒に出ていくのを見かけたことを思い出したが、あまりにも一瞬のことで、その男の顔は全く覚えていなかった。
高橋美咲が本当に他の男と結婚したかどうかなんて関係ない。絶対に高橋美咲に九条悠真を誘惑する隙なんて与えない。
少し迷ったあと、桜井奈緒は言った。「この前、高橋さんが男の人と一緒にいるのは見たわ。」
「その男はどんな奴だった?誰か分かるのか?」九条悠真は感情をあらわにして詰め寄った。
桜井奈緒は少し驚いた。
彼女は九条悠真を警戒するように見つめ、「悠真、なんでそんなにムキになってるの?まさか、まだ高橋美咲のこと忘れられないの?」と問いかけた。
考えれば考えるほど、九条悠真の心の中にはまだ高橋美咲がいる可能性が高いと感じた。
九条悠真は以前、「高橋美咲には一度も手を出したことがない」と言っていた。
高橋美咲があんなに気取っていたからこそ、九条悠真は彼女に嫌気がさし、その隙に自分が近づいて奪うことができたのだ。
手に入らなかったからこそ、余計に忘れられないのかもしれない。九条悠真はずっと高橋美咲のことを考えていたのかもしれない。
九条悠真は桜井奈緒の青ざめた顔と涙ぐんだ瞳を見て、胸が痛んだ。彼女をそっと抱き寄せ、「奈緒、考えすぎだよ。さっきの高橋美咲、やけに得意げだったから、ちょっと気になっただけだ」と優しく慰めた。
桜井奈緒は無理やり笑顔を作った。
九条悠真が説明しても、彼女にはごまかしているようにしか思えず、高橋美咲への憎しみがさらに強くなった。
そのとき、オフィスのドアをノックする音がした。
社員が書類の確認で九条悠真を呼びに来た。九条悠真は桜井奈緒を離し、「もう考えすぎるなよ。俺は仕事に戻るから」と言った。
九条悠真はドアを開けて出ていった。
彼が出ていくと、桜井奈緒の顔に冷たい影が差した。
ちょうどそのとき、バッグの中の携帯が鳴った。
桜井奈緒はすぐに携帯を取り出した。柏木健人からのメッセージだった。
柏木健人は「高橋美咲と寝た」と言い、さらに高橋美咲の動画まで撮ったと書いてあった。メッセージにはぼやけたスクリーンショットも添付されていた。
写真には、もがく女性の姿が映っており、確かに高橋美咲に似ているように見えた。
携帯を握りしめ、桜井奈緒は歓喜に満ちて笑った。「ははは、高橋美咲もついに汚れた女になったのね!」
高橋美咲が柏木健人に弄ばれている姿を想像すると、今すぐ九条悠真にその淫らな姿を見せてやりたくてたまらなかった。九条悠真はきっと激怒するだろう。
すぐに桜井奈緒は柏木健人に電話をかけ、動画を今すぐ送るように命じた。
電話はすぐにつながった。
桜井奈緒は苛立った声で言った。「柏木健人、今すぐ高橋美咲の動画を送って。」
「焦るなよ。これからしばらく身を隠すつもりだ。安全になったら動画を送る。」
そう言うと、柏木健人は桜井奈緒の返事も待たずに一方的に電話を切った。
耳元で切れた通話音を聞きながら、桜井奈緒は眉をひそめた。
柏木健人は本当にずる賢い。
心の中で柏木健人を罵ったが、動画が彼の手にある以上、今は従うしかない。高橋美咲がもう純潔でないと分かれば、それで十分だ。
動画さえ手に入れば、全て柏木健人のせいにしてやる。そうすれば高橋美咲も柏木健人も一度に片付けられる。
やっと一つだけ思い通りに進んだことができた。
桜井奈緒の目に冷たい光が宿り、口元がゆっくりと歪んでいった。
九条インターナショナルの外壁には新たに金属製の足場が組まれ、安全ネットも二重に張られていて、以前よりずっと安全そうに見えた。
高橋美咲は壁の前に立ち、片手に刷毛を持って塗装作業をしていた。
そのとき、控えめな雰囲気のベントレーがゆっくりと九条インターナショナルの前に停まった。
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