Chapter 566
ぼんやりした頭で「奥さん」と聞こえた気がした(続き)
他の人の噂話による細かい部分以外は、ほとんど事実と違いはなかった。要するに、柳小路は「九条社長が迎えに来る」と宣言していたのに、実際には来なかった。代わりに九条蓮が高級車で現れ、柳小路は嘘をついていたのではと疑われ、「九条社長の彼女」ではないのではという話になった。
その後、潔白を証明するために柳小路がこの食事会を企画した、という流れだった。
森川茉莉が話し終えると、しみじみとした表情で「柳小路は九条社長の彼女だってみんな知ってるし、今は高橋部長ともライバル関係。絶対このままじゃ済まさないと思う。高橋部長を誘うのは、きっと高橋部長の前で自分をアピールしたいからだと思います」と言った。
相沢紫苑は少し眉をひそめて「いかにも柳小路がやりそうなことだね」とつぶやいた。
かつて高橋グループにいた頃、柳小路はいつも強い者に媚び、弱い者を踏みつけるタイプだった。高橋彩花に取り入るだけでなく、あらゆる手段で彼女たちをいじめ、抑えつけてきた。
そして今、再び高橋美咲と顔を合わせ、しかも美咲に存在感で負けたことで、柳小路はきっと自分のプライドを取り戻そうとするに違いない。
相沢紫苑は美咲を褒めて言った。「行かないって決めて正解だったよ。」
もう罠だと分かっている以上、わざわざ泥沼に足を踏み入れる必要はない。
本物の九条社長は、すぐそばで自分の話題がされているのを聞きながら、こめかみの血管がずっと脈打っていた。
水城圭介に自分のふりをさせたことで、こんな大騒動になり、みんなが柳小路を自分の彼女だと誤解してしまうとは思ってもみなかった。
もう高橋美咲に自分の正体を隠すつもりはない以上、この件もきちんと片付けなければならない。
九条蓮が突然口を挟んだ。「行った方がいい。」
その言葉に、三人が同時に九条蓮を見た。
森川茉莉と相沢紫苑が声を揃えて言った。「え?柳小路が明らかに悪意を持ってるのに、なんでわざわざ恥をかかされに行かなきゃいけないの?」
九条蓮は表情を変えずに言った。「どうして恥をかかされるって決めつけるんだ?もし違うことが起きたら?」
「違うことって何よ?」相沢紫苑が思わずつぶやき、そしてふと気づいたように言った。「まさか柳小路と九条社長が付き合ってるって話、全部ウソだったの?みんな騙されてたってこと?」
九条蓮は何も言わず、黙ってそれを認めた。
そこでようやく三人は徐々に状況を理解し始めた。
九条蓮は九条社長の秘書だから、普通の人が知らない内部事情も知っているはず。つまり、これは本当なんだ!
森川茉莉と相沢紫苑はそれに気づくと、目がだんだん輝き始め、途端に大興奮した。
二人とも前から柳小路にはうんざりしていた。今度こそ彼女が恥をかくところを見られると思うと、これ以上ないほど嬉しかった。
「高橋部長、私たちも行きましょう!」
高橋美咲は、こんな裏話があったとは思いもしなかった。柳小路が自分を食事に誘ったのは、単なる食事じゃなく、自分に恥をかかせるためじゃなくて、逆に自分が彼女の失態を見物するためだったのだ。
結局、美咲はうなずいて同意した。「うん、柳小路が自滅するのを見に行こう。」
柳小路の件が持ち上がってから、三人とも明らかに気分が良くなった。
今は劣勢で、ずっと仁愛側の人間に抑え込まれていた。やっと少しは明るい話題が出てきたのだから、自然と心も軽くなった。
高橋美咲は九条蓮にそっと近づき、小声で尋ねた。「いつこのことを知ったの?なんで教えてくれなかったの?」
九条蓮の目が一瞬揺れた。「俺も予想外だった。最近になって知ったんだ。」
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