Chapter 560
水城圭介は九条社長の秘書
九条蓮はすぐに車をUターンさせ、病院へと向かった。
その時になって初めて、高橋美咲の心に戸惑いが浮かんだ。さっきは焦っていて深く考えなかったが、今になって何かおかしいと気づいた。
水城圭介って誰?
なぜ九条蓮は、まるで自分がその人を知っているのが当然かのように、当たり前の口調で話したのだろう?
もしかして最近忙しすぎて、断続的な記憶喪失でも起こしているのかと、高橋美咲は自分を疑い始めた。
運転に集中している九条蓮を見て、今は聞くタイミングではないと感じた。
九条凛に聞いた方がいいかもしれない。
そう思い、高橋美咲はそっとスマートフォンを取り出し、九条凛にメッセージを送った。
高橋美咲:「凛さん、水城圭介って知ってる?」
数十秒ほどして、九条凛から返信が届いた。文面からも焦りがにじみ出ている。「どうしてその人のこと知ってるの?なんで聞くの?何かあったの?」
九条凛は高橋美咲からのメッセージを見て、思わずソファから飛び上がりそうになった。
兄が正体を明かすと言っていたが、まさか今すぐ明かすつもりだったとは!
高橋美咲が突然水城圭介について尋ねてきた――もう兄の正体に気づいたのだろうか?
高橋美咲は、九条凛がそこまで動揺するとは思わなかった。本当にこの人に何か問題があるのだろうか?
彼女は返信した。「さっき九条さんに電話がかかってきて、この人が事故に遭ったって。今病院に向かってるんだけど、私はこの人のこと覚えてなくて、凛さんが知ってるか聞きたかったの。」
九条凛:「ああ、そういうことね。兄の秘書だよ。今どこの病院?私も様子を見に行く。」
もし高橋美咲が水城圭介を見て、“九条さん”だと気づいてしまったら困るので、九条凛も急いで病院に向かうことにした。
九条凛が心配している様子を見て、高橋美咲は病院名を送った。
スマートフォンを置いた後も、まだ少し腑に落ちない気持ちが残った。水城圭介は九条社長の秘書なのか?
それなら九条蓮がよく知っているのも当然だ。普段は九条蓮が九条社長の秘書をしているが、自分の記憶にはそんな人はいなかった。
いくら考えても答えが出ず、結局考えるのをやめてしまった。
どうせ後で水城圭介に会えばわかることだ。本当に自分が忘れているだけかもしれない。
高橋美咲と九条蓮が病院に到着すると、九条凛が入口で待っていた。
意外なことに、彼女の方が先に着いていたのだった。
九条凛が二人に歩み寄る。「美咲、来たのね。中に入って様子を見ましょう。」
彼女は何気なく九条蓮に目をやった。特に表情が変わらないのを見て、まだ正体がバレていないと察し、ほっと胸をなでおろした。
そのまま三人は救急外来へと向かった。
九条凛は九条蓮にそっと近づき、小声で尋ねた。「蓮、どうして美咲を連れてきたの?バレるのが怖くないの?選挙が終わったら話すって言ってたじゃない。」
九条蓮の目が一瞬揺れた。
本当は今日、自分の車を運転した時点から高橋美咲に正体を明かすつもりだった。
水城圭介に起きたことは、絶好のきっかけになるかもしれない。
「バレるなら、それでいい。」
九条凛は思わず息を呑んだ。その口ぶりだと、メゾン・ヴェルヌとニアのコンペが終わるのを待たずに高橋美咲に話すつもりなの?
あっという間に三人は救急外来の中へと入った。
救急外来には無数のベッドが並び、血まみれの患者たちが横たわっていた。医師や看護師が慌ただしく動き回る中、九条凛は看護師を捕まえて丁寧に尋ねた。「すみません、さっき交通事故で運ばれてきた方はどこですか?あ、名前は水城圭介です。」
看護師はベッドの一つを指さし、「あちらです」と答えた。
高橋美咲はその男性に目をやり、思わず息を呑んだ。
この人、ひどい怪我じゃない!
九条凛も水城圭介の姿を見て、固まってしまった。
えっ?
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