Chapter 554
彼は高橋美咲を迎えに来た(続き)
待って……さっきの車は、柳小路を迎えに来たんじゃなかったの? 高橋美咲を迎えに来た車だったなんて!!
あまりにも衝撃的な展開で、誰一人として予想していなかった。
柳小路は高橋美咲に完膚なきまでに打ちのめされ、人前で思いきり面目を潰された。顔色は青くなったかと思えば白くなり、歪んだ表情を抑えきれないほどだった。
今の彼女は頭からつま先までびしょ濡れで、まるで濡れ鼠のようだった。
佐伯葉月の目がきらりと動いた。彼女は傘を取り出し、柳小路のそばへ行って差しかけた。「柳さん、雨が強くなってきたわ。雨宿りしたほうがいいよ」
そこでようやく、柳小路は衝撃から我に返った。
高橋美咲が高級車で迎えられた光景が何度も目の前によみがえり、柳小路はどうしても現実を受け入れられなかった。
高橋美咲の男は秘書だったはずだと、彼女ははっきり覚えていた。そんな男が、どうしてあれほど豪華な車で来られるというのか。
もしかして、九条社長の車を使ったのだろうか?
佐伯葉月は、先ほど九条蓮が姿を現してからの一部始終を見ていた。今こうして近づいたのも、いったいどういうことなのか柳小路に尋ねるためだった。
佐伯葉月は探るように聞いた。「柳さん、九条社長はどうしてまだ来ないの? さっきは高橋美咲と彼氏にすっかり注目をさらわれたわね」
「あの人は……もう少し待たないと来ないのかも」
それを聞いた佐伯葉月の目に、冷ややかな光がにじんだ。
やはり思ったとおりだった!
柳小路は間違いなく人違いをしたのだ。そうでなければ、誰かが九条社長になりすまして彼女を騙したに違いない。
どう考えても、柳小路は騙された愚かな女にすぎず、自分への脅威にはならない。高橋美咲の相手は、この女にさせればいい!
佐伯葉月は胸の内を隠し、笑顔で言った。「それなら大丈夫。もう少し待ちましょう」
「うん」
この頃には、後ろにいた人々の顔から驚きも次第に薄れ、鍋が沸騰したような騒ぎで集まってひそひそ話をしていた。
「うそでしょ! 今の何? 高橋美咲が高級車で迎えに来てもらったの?」
「いや、そこじゃないでしょ。みんな、あの車には九条社長が乗ってると思ってたんだよ? まさか九条社長じゃなくて、そばにいる秘書だったなんて」
以前、九条蓮が九条社長の代理として競争の結果を発表しに来たことがあり、その時に彼の素性を知った者は少なくなかった。
「九条社長が、あの人に車を使わせたのかな?」
「九条社長には専属運転手がいるでしょ? 秘書に自分の車を運転させるわけないじゃない」
「もしかして、あの秘書自身の車? 冗談はやめてよ。あの給料じゃ、何百年働いたって買えないでしょ」
「……」
佐伯葉月に支えられ、柳小路は雨を避けるため九条インターナショナルのロビー入口へ戻った。
ティッシュで顔の雨水を拭う彼女の顔は、すでに暗く沈んでいた。そばで繰り広げられる噂話が耳に入るたび、その険しい表情はますますひどくなった。
とうとう耐えきれなくなった柳小路は、恥ずかしさのあまりそこにいられず、踵を返して立ち去った。
だが、彼女が去っても皆の話は止まらなかった。
誰もがあれこれ話し、思いつくままに憶測を口にしていたため、先ほど高橋美咲を迎えに来たと思い込んでいた車がゆっくり走り去ったことに気づかなかった。
その車はぐるりと回り、九条インターナショナルの地下駐車場へ入っていった。
運転していたのは水城圭介だった。
彼は本当に柳小路を迎えに来たのだ。ただ、九条蓮と鉢合わせるとは思っていなかった。
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