Chapter 553
彼は高橋美咲を迎えに来た
ほどなくして、誰かが異変に気づいた。
柳小路が車のそばまで行っても、九条社長はドアを開けなかった。そのため、彼女は外に立ったまま雨に打たれるしかなかったのだ!
たちまち、あちこちでひそひそ話が始まった。
「見て。柳小路、ドアを開けられないみたい」
「本当だ。もしかして、九条社長が開けてあげるつもりなのかな?」
「まさか。九条社長がそんなことするわけないでしょ?」
「……」
Niaの一同は、誰もが柳小路と九条社長を見物するためだけに残っていたわけではない。嫉妬心を抱き、柳小路が本当に九条社長と関係があるのか確かめたい者も大勢いた。
この状況を見て、誰かが口にした。「どうして九条社長は柳小路にドアを開けてあげないの? もしかして……柳小路は本当は九条社長と何の関係もないんじゃない?」
その言葉で、皆ははっと目を覚ました!
何かがおかしいとは思っていたが、そんな可能性は考えもしなかったのだ!
中には、以前の出来事を思い出す者もいた。かつてメゾン・ヴェルヌのマネージャー職を争った時、柳小路は九条社長が後ろ盾だと言っていた。それなのに、最後に勝ったのは高橋美咲だった。
その時は誰も深く考えず、ただの偶然だと思っていた。だが、今になってよく考えてみると、確かにひどく怪しい……。
柳小路は皆から離れていたため、自分について何を話しているのかまでは聞こえなかったが、かすかな忍び笑いがいくつか耳に入った。
目の前の車がこのまま何の反応も見せなければ、九条インターナショナル中の笑いものになってしまう。
彼女の表情は崩れかけていた。
柳小路が九条社長に電話しようかと考えたその時、目の前の車のドアが突然開いた。
「九条社長……」
柳小路の顔に喜びが浮かび、慌てて前へ出た。
ところが顔を上げた彼女の目に映ったのは、冷たく険しい顔だった。目の前に立つ長身の男は、なんと九条蓮だった!
柳小路はその場で凍りつき、一言も発せなかった。
九条蓮は高級車に備え付けられていた黒い傘を差していた。白いワイシャツに黒いスラックスをまとい、すらりと立つ姿からは、謎めいた近寄りがたい冷気が漂っている。
彼は柳小路に一瞥すらくれなかった。傘を手にそのまま彼女の横を通り過ぎ、九条インターナショナルの入口へまっすぐ向かった。
「……」柳小路は呆然と立ち尽くし、いつまでも我に返れなかった。
誰もが、車のドアを開けたのは九条社長だと思っていた。ところが、出てきたのは九条蓮だったのだ!!
一同は完全にあっけに取られた。
高橋美咲も、九条蓮が車に乗っているとは思っていなかった。ついさっきまで、中にいるのは九条社長だと思っていたのだ。
その時には、九条蓮はもう高橋美咲の前まで来ていた。彼は優しい声で言った。「雨が降ってる。早く帰ろう」
「……どうしてあなたなの? なんで、こんな車に乗ってきたの?」
高橋美咲はすぐに驚きの表情を引っ込めた。周囲がどれほど驚いているかなど気にも留めず、真っ先に疑問を口にした。
「まず乗って。話はあとだ」九条蓮はそれ以上説明しなかった。
高橋美咲はもともとここで九条蓮を待っていたうえ、背後には嫌みを言う人だかりもいた。彼女もこれ以上ここにいたくなかった。
そこで、九条蓮の傘の下へ入った。
九条蓮はたくましい腕を伸ばして高橋美咲の肩を抱き、高級車へと連れていった。傘を高橋美咲の側へ傾け、雨粒一つ彼女に触れさせない。その姿は、この上なく彼女を大切にしているように見えた。
高橋美咲が助手席に乗ったのを見届けてから、彼は運転席へ戻った。
車はすぐにその場を走り去り、雨の中で呆然と立ち尽くす柳小路と、驚きから抜け出せない人々だけが残された。
「……」
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