Chapter 552
それは九条蓮なのか
その瞬間、周囲の人々はすぐに柳小路に媚びを売り始めた。
「うわぁ……九条社長の車って、世界に一台しかないんじゃない?値段なんて想像もつかないよ。」
「あんな車、一度でいいから乗ってみたいなぁ。どんな気分なんだろう。」
「絶対すごいよね。本当に柳小路が羨ましい。」
さっき高橋美咲に言い負かされた女性は、ここぞとばかりに彼女を嘲り始めた。軽蔑の笑みを浮かべ、皮肉たっぷりに言う。「高橋美咲、見た?あんたには一生あんな車、乗るチャンスないでしょ?」
高橋美咲はその女性を淡々と見返した。
まるで自分が乗れるかのように、柳小路に媚びへつらう姿は滑稽だった。
くだらないお追従に付き合う気もなく、高橋美咲は何も言わなかった。
だが、その沈黙がかえって女性の出番を増やし、さっき抑え込まれていた鬱憤を晴らした気分になったようだった。
彼女は周囲に向かって口元を手で隠しながらクスクス笑い、高橋美咲には軽蔑の笑みを向けた。
あっという間に、その超高級車が九条インターナショナルのビルの前にゆっくりと停まった。
車がようやく止まったその時、百万円ちょっとの国産コンパクトカーがすぐ後ろに現れた。
2台の車が続けて並んで停まる。見た目だけでも、何十倍もの価格差が歴然としていた。
突然、誰かが外を指差した。「あっ、見て!あれ高橋美咲の彼氏の車じゃない?前にあの車で迎えに来てたの見たことあるよ。」
「本当だ!」
「高橋美咲の彼氏も迎えに来たの?」
さっき高橋美咲に苛立たされた女性がすかさず嘲笑う。「ちっちっち、あのボロ車見てよ。見てるだけで可哀想になるわ。柳小路の彼氏の十五億円相当の高級車とは雲泥の差じゃない?」
その言葉に周囲はまた一斉に笑い出した。
高橋美咲は無表情で、そんな言葉はまったく気にしていなかったし、心が動くこともなかった。
安いから何だというのか。
九条蓮は自分の力で稼いだお金でその車を買った。盗んだわけでも、誰かから奪ったわけでもない。それを笑う権利が彼らにあるのか。
その時、誰かが柳小路に声をかけた。「柳取締役、九条社長が迎えに来てるんですよ。何してるんですか?早く行かないと、九条社長を待たせちゃいますよ。」
周囲が盛り上がる中、後ろにいた佐伯葉月だけは冷めた様子だった。
彼女は眉をひそめ、目の前の車をじっと見つめていた。
確かに九条蓮の車だが、中にいるのは本当に九条蓮なのか?
ドアが開いた瞬間、すぐに誰が乗っているのか確かめてやる——本当に九条蓮なのかどうか!
……
外の雨はどんどん強くなり、柳小路は一瞬ためらって立ち尽くした。
本当は九条社長に迎えに来てほしかった。
だが九条社長の立場を考えると、もし断られたら大恥だ。
恥をかきたくなくて、柳小路は結局雨の中を駆け出した。
十五億円相当の高級車の前に立つ。窓ガラスは濃いスモークで、しかも雨で視界が悪く、中に誰がいるのか全く分からない。運転席で人影が動くのがぼんやり見えるだけだった。
柳小路はドアノブに手をかけたが、意外にもドアはしっかりロックされていた。
柳小路の表情が固まる。雨を手で遮りながら、窓をノックして小さく声をかけた。「ねえ、ドアのロック忘れてるよ。」
そう言っても、ドアが開く気配はなく、車は静かにその場に止まったままだった。
柳小路は雨の中に長く立たされ、ほとんどびしょ濡れになっていた。
だが今さら九条インターナショナルのビルに戻れば、絶対に笑いものになる。だから九条社長がドアを開けてくれるのを待つしかなかった。
その時、後ろのNia社員たちが顔を見合わせた。
どういうこと?
なぜ柳小路はまだ車に乗らない?なぜ雨の中で立ち尽くしているのか?
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