Chapter 549
メゾン・ヴェルヌに入るほど目が節穴な人
今日、柳小路はメゾン・ヴェルヌに新しい人が入ったと聞き、興味本位で様子を見にやってきた。
まさか、そこに相沢紫苑がいるとは思わなかった。
かつて高橋グループで働いていたこのデザイナーが、実際にメゾン・ヴェルヌに入社していたのだ。しかし考えてみれば……佐伯葉月は高橋美咲を業界全体でブラックリストに載せると言っていた。誰もメゾン・ヴェルヌに応募しないと豪語していたのだ。高橋美咲が他にデザイナーを見つけられなければ、結局は以前の知り合いに頼るしかない。
相沢紫苑には多少の才能があったが、その才能もとっくに使い果たされている。高橋美咲が彼女を呼び戻したところで、何の役にも立たないだろう。
柳小路は内心ほくそ笑み、今度こそ高橋美咲は絶対に負けると確信した。
彼女は軽蔑の表情を浮かべて言った。「私がここに来たいと思ってるとでも?メゾン・ヴェルヌに入るほど目が節穴な人がいるって聞いたから、どんな大物かと思ったら……まさか相沢紫苑みたいなゴミだったなんてね……」
そう言い放つと、柳小路はハイヒールを鳴らしながら得意げにメゾン・ヴェルヌを後にした。
柳小路が去った後、森川茉莉は憤慨して言った。「あの人、いくらなんでも傲慢すぎません?デザイナーの相沢さんをゴミ呼ばわりするなんて!」
高橋美咲は相沢紫苑を心配そうに見て、「今の言葉、気にしないで」と声をかけた。
相沢紫苑は笑って、気にした様子もなく「高橋マネージャー、大丈夫です。心配しないでください。私はもう、刃も槍も通さない無敵の術を身につけましたから」と言った。
高橋グループにいた頃、相沢紫苑は柳小路から散々嫌味を言われてきた。最初は腹も立ったが、怒っても無駄だと悟ってからは、柳小路の言葉を全て屁のように聞き流す術を身につけたのだ。
高橋美咲はじっと相沢紫苑の様子を観察した。
本当に無理して笑っている様子がなかったので、高橋美咲も微笑み、「すごく順応してるみたいね。それならもう心配しなくていいわ」と言った。
「本当に大丈夫です!」と相沢紫苑は胸を叩いてみせた。
「よし、この程度のことは気にしないでおこう。柳小路が傲慢であればあるほど、後で思い切り見返してやればいい。さて……相沢さん、早速いくつかデザイン案を考えて。森川さんは引き続き募集範囲を広げて。メゾン・ヴェルヌを1ヶ月以内に立て直すのが目標よ」
2人は声を揃えて返事した。
「はい!」
「了解です!」
相沢紫苑は自分の席に戻り、すぐに仕事に没頭し始めた。森川茉莉も自分の業務に取り掛かるため、急いで席を離れた。
残されたのは高橋美咲だけ。部長に昇進したとはいえ、何もせずに座っているわけにはいかない。
新しいデザイナーがまだ決まっていない以上、しばらくは自分がデザイナーの役割を担うしかない。
高橋美咲は紙とペンを手に取り、窓際の席に座った。
だが、デザインはそんなに簡単なものではない。十分なインスピレーションが必要だが、今の高橋美咲にはまったく浮かんでこない。何をデザインすればいいのか、全く見当もつかなかった。
この業界は長年発展してきて、考えうるテーマやデザインはほとんど誰かがすでにやっている。今さら普通のデザインをしても、消費者には見向きもされないだろう。
最終的な目標は、ヒット商品を生み出すこと。それができて初めて高い売上につながる。
高橋美咲は一日中ぼんやりと考え続けたが、結局何もデザインできなかった。インスピレーションが枯渇していることに気づいた。
「高橋マネージャー……」森川茉莉の遠慮がちな声が聞こえて、ようやく我に返った。
「どうしたの?」と高橋美咲。
森川茉莉は少し恥ずかしそうに「えっと……今夜、お見合いがありまして……」と答えた。
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