Chapter 539
彼女の身分は何なのか(続き)
九条家の大旦那様は急いで車に近づき、九条家の大奥様がにこやかに見ているのに気づくと、顔をさらに険しくした。
九条家の大奥様が自分を笑っているのが分かった。
引き返そうとしたその時、九条家の大奥様が「もう遅いわよ。早く乗って」と声をかけた。
「……」
九条家の大旦那様は仏頂面のまま、無言で車に乗り込んだ。
ドアが閉まり、車はゆっくり九条家本邸を後にした。
…
九条蓮は、今日ばかりはもう逃げられないと覚悟していた。もし全てが明るみに出たら、その時は高橋美咲に本当の自分を打ち明けるつもりだった。
たとえ彼女が怒ったとしても、仕方がない。
最悪、心から謝って高橋美咲の許しを請うしかない。
九条蓮は高橋美咲を連れて九条家本邸へ向かっていた。道中、高橋美咲は緊張してあれこれ考えすぎており、九条蓮が大阪の高級住宅街へ向かっていることにも気づいていなかった。
その時、九条蓮の横に置かれたスマートフォンが振動した。
何事もないように画面を見やると、それは九条家の大奥様から送られてきた住所だった。
九条蓮の目に、ほんの一瞬だけ驚きの色が浮かんだ。ゆっくりと車を路肩に寄せて停める。高橋美咲が我に返り、「どうしたの?」と尋ねた。
携帯の電源を入れると、九条家の大奥様からのメッセージが届いていた。一つは軽井沢の郊外の住所、もう一つは「身元がバレる心配はいらないから安心して」といった内容だった。
そこで初めて九条蓮は思い出した。九条家の大旦那様が療養を希望した際、「田舎の方が空気も環境もいい」と言って、郊外に小さな家を購入し、そこで療養させる予定だったことを。だが最近は九条家の大旦那様も何かと忙しく、まだ引っ越す時間がなかった。
とはいえ、誰も住んでいなくても、ずっと手入れはされていた。
九条家の大奥様は、九条家の大旦那様と一緒にそこへ行き、蓮の身元がバレないように配慮してくれていたのだ。
九条蓮の目にあった緊張が、徐々に和らいでいく。お祖母様は本当に自分に優しい。
これで身元がバレる心配もなくなった。
「何があったの?お祖父様とお祖母様の方で何かあったの?」九条蓮の表情が変わったのを見て、高橋美咲は何が起きたのか分からず、不安そうに九条蓮の腕を掴んで問いかけた。
九条蓮は携帯を置き、「大丈夫だよ。心配しないで。お祖母様が今夜何を食べたいか聞いてきただけ。早めに準備したいんだって」と優しく答えた。
その言葉に、高橋美咲もようやく安心した。
「えっと……さっき食べたばかりだし。」
それは九条蓮がとっさに作った口実だった。彼は高橋美咲の頭をそっと撫で、「じゃあ後で考えよう。行こう。お祖父様とお祖母様が待ってるから」と言った。
九条蓮は車を発進させ、方向を変えて軽井沢の郊外へ向かった。
約1時間半後、目的地に到着した。
ここは大阪の郊外で、家が点在しているが、住んでいるのはほとんどが高齢者。若い人たちは皆、市内に働きに出ていた。
この家の元の持ち主はギャンブルで多額の借金を抱え、やむなく家を担保に入れた。その後、九条家が買い取った。周囲の環境が良かったので、特に手を加えず、小さな中庭だけをリフォームした。
周囲の雰囲気に溶け込むよう、贅沢な造りにはせず、
むしろ素朴な田舎の雰囲気を大切にしていた。
車は中庭で停まった。九条蓮は車を降りて高橋美咲のドアも開けてやる。
高橋美咲は中庭を見て、興味深そうに周囲を見回した。
ここが九条蓮のお祖父様とお祖母様の住まいなのか。環境がとても良さそうだ。
「蓮、美咲ちゃん、いらっしゃい。中に入ってゆっくりしてね」九条家の大奥様が家の中から出てきて、温かく二人を迎えた。
「お祖母様」と九条蓮が声をかける。
高橋美咲もそれにならい、「お祖母様」と呼んだ。
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