Chapter 523
力がみなぎる
あの時、高橋恵を黒川メディカルセンターに移したのは正解だった。これで美咲と会う機会も増える。
高橋美咲はうなずいた。「ええ、大阪で用事があったので、ついでに寄りました」
黒川善は「どうぞ、恵さんの様子を一緒に見に行きましょう」と言った。
その言葉に、高橋美咲は立ち上がり、彼と一緒に病室へ入った。
高橋美咲は高橋恵の治療に付き添い、黒川善から母の容態についてしばらく話を聞いて、ようやく心から安心できた。
気がつけば、もうお昼近くになっていた。
黒川善は時計をちらりと見て「美咲さん、お昼ご飯をご一緒しませんか」と声をかけた。
「そんな、助けていただいたのはこちらなのに、私がご馳走しないと!」
黒川善は口元に微笑みを浮かべて「それなら遠慮なく、ご馳走になります」と答えた。
高橋美咲と黒川善は、病院の近くのレストランで食事をすることにした。
二人は並んでボックス席に腰を下ろした。
高橋美咲は積極的にメニューを黒川善に差し出し、「注文していいよ。遠慮しないで」と言った。
目の前で表情豊かに話す高橋美咲を見て、黒川善の心臓はまたドキドキと高鳴った。
だが、高橋美咲の隣にはすでに男がいる。くそっ!
黒川善は高橋美咲にジロリと目を向け、鼻で笑った。「そんなの言われなくても遠慮なんかしないよ。もし払えなかったら、美咲を質に入れるからな」
そして自分で高橋美咲を引き取りに行くつもりだった。
黒川善は何気なく尋ねた。「そういえば、旦那さんは一緒じゃないの?」
高橋美咲は首を振った。「仕事で大阪に来てるの。彼も仕事があるから、私の後をついて回る暇なんてないよ」
高橋美咲の言葉を聞いた黒川善は、目を細めて探るように言った。「美咲、もし彼が思ってた人と違うって分かったら、どうする?君、昔から嘘つかれるの一番嫌いだったよな」
黒川善の頭には九条蓮の正体がよぎっていた。もし高橋美咲が知ったら……
……
その頃、二つの人影が裏口から静かにレストランに入ってきた。
九条蓮と九条凛だった。
二人は高橋美咲たちの隣のボックス席に座り、仕切りで遮られているため、高橋美咲は二人の存在に全く気付かなかった。
九条蓮は高橋美咲を探して大阪に来ており、九条凛も彼を追いかけてきた。最初は相沢紫苑のもとを訪ねたが、高橋美咲を見つけられず、病院にも行ったが空振りだった。
最後にこのレストランにたどり着き、まさか高橋美咲と黒川善が一緒に食事しているとは思いもしなかった。
しかもただ食事しているだけでなく、黒川善は自分の悪口まで言っている!
九条凛は憤慨しつつ、兄の表情をそっとうかがった。兄の顔色がみるみる暗くなっていくのを見て、心臓がドキリとした。
うーん……一見落ち着いているけど、その下ではきっと血の雨が降ってるに違いない!
兄さん、本当に人を斬りに行ったりしないよね?
もしそうなったら、黒川善には心の中でそっと哀悼の意を捧げよう……
今になってようやく、九条蓮がさっき自分を引き止めて高橋美咲に挨拶させなかった理由が分かった。盗み聞きするためだったのか!
じゃあ、このまま黒川善がどんなことを言うのか聞いてみよう!
隣のボックス席で、高橋美咲は黒川善の言葉を反芻していた。九条蓮が思っていた人と違うって、どういう意味?彼はまさにああいう人じゃないの?
違うとすれば、見た目は明らかに御曹司っぽいのに、実は運転手兼アシスタントで、しかも名前まで変なせいで笑いが止まらないくらい、ってことくらい。
高橋美咲はくすっと笑った。「何も違わないよ。まさか九条蓮だって言いたいんじゃないでしょうね?善、前にも言ったけど、あなたの勘違いだよ。彼は九条蓮じゃない」
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