Chapter 516
九条蓮が高橋美咲に与えたブースト
森川茉莉は歯を食いしばって「……は、はい、分かりました!」と答えた。
普通なら、こんなジュエリーデザイナーが自分から来るなんてあり得ない。
森川茉莉自身もこの言い訳は無理があると思ったが、他に説明のしようもなかった。
……
森川茉莉はファイルを持ってメゾン・ヴェルヌに戻り、心は落ち着かなかった。
この時、メゾン・ヴェルヌのデザイン部は静まり返っていて、ちょっとした物音も大きく響くほどだった。高橋美咲は一人でパソコンの前に座り、何かに集中している。表情は真剣そのものだ。
「高橋マネージャー。」森川茉莉は近づき、パソコン画面を覗き込みながら「何をしているんですか?」と尋ねた。
高橋美咲は顔を上げずに「親しいデザイナーに連絡してるの。すごく才能がある人だけど、前にちょっと挫折してしまって」と答えた。
過去の出来事を思い出し、高橋美咲の目は再び暗く沈んだ。
高橋美咲はメールを書き終え、送信してようやくほっと息をついた。
そして森川茉莉に「調べておいてって頼んだデザイナーの件、どうだった?」と尋ねた。
森川茉莉はすぐに手に持っていた二つのファイルを高橋美咲に差し出し、「高橋マネージャー、人材を探していたら、この二人のデザイナーが高橋マネージャーの噂を聞いて自分から応募してきたんです。資料を見てください……」と伝えた。
そう言いながら、森川茉莉は内心とても後ろめたかった。
高橋美咲に怪しまれないかと心配したが、高橋美咲はファイルを受け取ってそのまま読み始め、特に疑う様子はなかった。
しばらくして、高橋美咲は眉をひそめて「露木理人と柏木伊吹?本当にこの二人が来るの?」と確認した。
彼女の知る限り、この二人は非常に優秀で、今の会社でも十分な実績を積んでいる。もし転職するなら、これまで築いてきたものを全て捨てて一からやり直すことになる。
メゾン・ヴェルヌは九条インターナショナルの後ろ盾があるとはいえ、業界でデザイナーが最初に選ぶ会社というわけではない。
高橋美咲は少し不思議に思った。なぜこの二人が突然転職するのだろう?
森川茉莉はぎこちなく笑い「高橋マネージャーはクイーンですから!きっと噂を聞いて来たんですよ」と言った。
本当にそうなのだろうか?
高橋美咲はまだ半信半疑だった。確かに多少の知名度はあるが、そこまでとは思えない。それでも人が集まるのは自分にとって良いことだ。
すぐに高橋美咲は余計なことを考えるのをやめた。
……
全てのデザイナーたちは佐伯葉月に連れられてニアのオフィスフロアへ向かった。
ここは元々、九条インターナショナルが市場拡大のために用意した場所だったが、今はそのままニアのオフィスとして提供されている。
周囲の環境はメゾン・ヴェルヌのほぼ二倍の広さがあり、内装も非常に上品で豪華だった。入った瞬間、思わず感嘆の声を上げる人も多かった。
「わあ!ニアのオフィス、めちゃくちゃ広い!」
「佐伯マネージャーがいなかったら、こんなチャンスなかったよね。」
「本当、佐伯マネージャーは私たちの救世主だよ!」
柳小路がデザインディレクターに就任してから、再び勢いを取り戻した様子で、鼻で笑いながら言った。「そうよ。佐伯さんが突然現れて、私たちをあの地獄のメゾン・ヴェルヌから救い出してくれたんだから。今度こそ、高橋美咲を叩き潰してやるわ!」
みんながうなずき、佐伯葉月は明らかに高橋美咲よりも優れているという空気が漂った。
「ははは、高橋美咲なんて、今ごろ空っぽの箱を守って頭を抱えてるんじゃない?」
「本当に哀れよね。私だったらもう諦めてるわ。」
「彼女がメゾン・ヴェルヌの責任者になるなんて、笑い話でしかない!」
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