Chapter 510
高橋美咲、メゾン・ヴェルヌ責任者に就任
…
その日、メゾン・ヴェルヌのデザイン部には皆が早めに出社していた。
特に柳小路は期待に胸を膨らませ、なんと一時間も早くオフィスに到着していた。今日はメゾン・ヴェルヌの責任者を決める最終選考の日だったからだ。
昨夜、柳小路は「九条社長」に甘えて駄々をこね、高橋美咲と九条夫人のせいで前回は失敗したとほのめかし、また助けてほしいと期待していた。
その後、九条社長はとても優しく慰めてくれた。「これからもチャンスはある」と言ってくれたが、彼女にはその真意が分からなかった。
実際、柳小路は自分が九条社長を誘惑しているつもりだったが、実はその相手は一時的に九条蓮の代理を務めていた水城圭介だった。
水城圭介は、次のチャンスがあると言ったのは、九条蓮が高橋美咲に特別扱いをすることを知っていたからで、彼女にはまた別の昇進の機会が与えられるだろうと考えていたのだ。
だが柳小路は、最初の選考で失敗しても次で助けてもらえる、つまり今回は九条社長の力で高橋美咲に勝てるのだと勘違いしていた。
つまり、今回こそ九条社長の後押しで高橋美咲を打ち負かせる!と信じていたのだ。
デザイン部の社員たちは小さなグループに分かれて集まり、皆の熱い視線の中、九条蓮が姿を現した。彼は皆から九条社長の秘書だと誤解されていた。
高橋美咲は昨夜、彼と親密な時間を過ごしたばかりで、今こうして平静を装って彼と向き合うのは本当に大変だった。一度視線を合わせただけで頬が熱くなる。
九条蓮を見るたびに、どうしても艶めいた情景が頭に浮かんでしまう。
彼の温かい手が自分の体をなぞり、まるで小舟が大海に浮かぶように、彼に導かれて漂うあの感覚——
高橋美咲は慌ててそんな雑念を押し込めた。
一体何を考えているのだろう!
幸い、すぐに気持ちを立て直し、少なくとも表面上は何もなかったように振る舞えた。
九条蓮は無表情で書類を取り出し、皆の前で発表した。「九条インターナショナル本社の決定により、高橋美咲のこれまでの実績が極めて優秀であると認められました。今後の選考は不要とし、本日よりメゾン・ヴェルヌは高橋美咲の全面的な管理下に置かれます。」
「ええっ!」
メゾン・ヴェルヌの社員たちは驚愕し、まさかの展開に言葉を失った。
最終選考が中止され、高橋美咲がメゾン・ヴェルヌの責任者になるなんて?
当の高橋美咲自身も呆然とし、何が起きているのか全く分からなかった。
倉本隆氏の件以来、物事が妙に順調に進みすぎている。まるで誰か強力な後ろ盾がいて、裏でチートでも使っているかのようだ。
柳小路は大勝負に備えて気合を入れていたのに、高橋美咲は彼女を飛び越えてそのまま就任してしまい、あっけにとられてしまった。
柳小路はすぐさま大声で叫んだ。「そんなはずない!何かの間違いじゃないの?」
もちろん、九条蓮は柳小路など全く相手にしなかった。
もし彼女が高橋グループから送り込まれた人間でなければ、水城圭介の顔を立てる必要もなく、とうに切っていたはずだ。
前回、高橋美咲を陥れた時点で、柳小路を九条インターナショナルから一掃する理由は十分だった。高橋美咲の上に立たせるなど、絶対にあり得ない。
九条蓮は柳小路に一瞥もくれず、そのまま高橋美咲のもとへ歩み寄り、手にした辞令を渡して静かに言った。「美咲、メゾン・ヴェルヌ・ジュエリー部門のマネージャー就任、おめでとう。」
高橋美咲はその場で固まったまま、ぼんやりと辞令を受け取った。まるで夢を見ているようだった。
周囲の社員たちも、風向き次第で態度を変えるタイプばかり。高橋美咲がメゾン・ヴェルヌの責任者になったと分かるや否や、すぐにお祝いの言葉をかけてきた。
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