Chapter 50
幸運にも、彼が来てくれた
高橋美咲は立ち上がり、「彼女は何をしろと言ったの?」と問い詰めた。
柏木健人は九条蓮が怖くて仕方がなかった。相手が誰かは分からなくても、ただならぬ雰囲気に、何も隠せるはずがない。すべて正直に白状した。
「桜井奈緒に、高橋さんと寝て、その様子を撮影しろと言われました。婚約パーティーで流して、高橋さんを徹底的に貶めるつもりだと……」
桜井奈緒の計画を聞き、高橋美咲は怒り心頭だった。
女の嫉妬心は時に一番恐ろしい。桜井奈緒は本当に腹黒い女だ!
彼女はスマホを取り出し、ビデオモードに切り替えて柏木健人に向け、「今言ったことをもう一度言いなさい!」と厳しく命じた。
柏木健人は逆らうこともできず、言われた通りに繰り返した。
犯行の証拠を録画し終えると、高橋美咲はスマホをしまった。
九条蓮は低い声で「もう休め。あとは俺に任せろ」と言った。
そう言うと、九条蓮は柏木健人の襟首をつかみ、部屋の外へ引きずり出した。
部屋の外で、九条蓮はスマホを取り出し、真壁直人に電話をかけ、5分以内に自分の前に来るよう命じた。
真壁直人はさっき九条蓮を送り届けたばかりで、まだ遠くへは行っていなかった。指示を受けるとすぐに車を引き返した。
間もなく、真壁直人が姿を現した。
彼は近づいてきて、恭しく「九条様、ご指示を」と言った。
柏木健人は目を見開き、九条蓮を呆然と見つめた。まるで今聞いたことが信じられないかのようだった。
九条様!真壁直人が言う九条様って、まさか……
九条インターナショナルの九条様は一人しかいない。瞬時に柏木健人の顔は真っ青になり、頭の中は「終わった」の二文字でいっぱいになった。
柏木健人は震えながら「九条様、まさかあなたが九条様だとは知らなかったし、高橋美咲さんがあなたの女性だとも全く知りませんでした。どうかお許しください!」と懇願した。
真壁直人はここで柏木健人を見かけ、彼の言葉を聞いて、すぐに何があったか察した。
彼は一歩前に出て、柏木健人を容赦なく蹴り飛ばした。
「許せだと?前回は高橋さんのワイヤーを細工して殺しかけたのに、九条様は一度見逃してくださった。それなのに、また高橋さんに手を出すとは!」
柏木健人は心底後悔した。桜井奈緒の言葉なんて聞くんじゃなかった。
彼は慌ててひざまずき、必死に命乞いをした。「欲に目がくらんでいました。もう二度としません、本当に反省しています……」
柏木健人は九条蓮に向かって何度も頭を下げ、怯えた小動物のように取り乱していた。
九条蓮は氷のような視線で、「さっき、桜井奈緒に高橋美咲の映像を撮るよう命じられたと言ったな?」と冷たく問いただした。
「はい!全部桜井奈緒の指示です。僕は関係ありません!」柏木健人はすぐに責任を桜井奈緒に押し付けた。
九条蓮は口元に嘲るような笑みを浮かべた。
その瞳には血の気を帯びた闇が一瞬走り、ゆっくりと「お前にやってもらうことがある」と告げた。
柏木健人はとにかく罰を逃れたい一心で、すぐに「九条様、何でもお申し付けください!絶対に従います!」とうなずいた。
九条蓮はもう柏木健人を一秒たりとも見たくなかった。少し苛立った様子で「真壁、こいつを連れて行け。二度と俺の前に出すな」と命じた。
「かしこまりました、九条様」真壁直人はすぐに柏木健人を引きずっていった。
……
部屋の中で、高橋美咲は荒らされた物を元に戻し、柏木健人がいた場所を消毒して、ようやく少し落ち着いた。
しばらくして、九条蓮が外から戻ってきた。
彼の顔にはまだ暗い影が残っていた。
高橋美咲は「柏木健人は?」と尋ねた。
「片付けた」九条蓮はどう処理したかは言わなかった。
高橋美咲は警察に突き出したのだろうと思い、それ以上は聞かなかった。
彼女はさきほど録画した柏木健人の自白動画を九条蓮に送り、「動画を送ったから、証拠として提出して」と伝えた。
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