Chapter 496
九条社長が彼女を頼んだ理由
「ありがとうございます、倉本隆夫人。」高橋美咲はきちんと礼儀正しくうなずいた。
それを聞いた倉本隆氏は思わず反論した。「面倒を見るように言われたって?いやいや、高橋さんの実力に感心したからだよ。それに、面倒を見るように言われたなら、九条社長からも直接電話があって頼まれたんだ。そっちは言わないのかい?」
倉本隆氏の言葉を聞いて、高橋美咲はその場で固まった。
彼女は驚いた様子で倉本隆氏を見つめ、不安げに尋ねた。「倉本隆さん、今おっしゃったのは、九条社長が直接お電話して、私のことを頼むとおっしゃったんですか?」
倉本隆氏は何度もうなずきながら言った。「そうだよ。九条社長ご本人がそう言ってた。高橋さん、そんなに気にしなくていいよ。頼まれたからだけじゃなくて、あなた自身の実力も十分ある。将来メゾン・ヴェルヌのリーダーになれば、あなたのもとでメゾン・ヴェルヌはきっと輝くよ。」
高橋美咲は眉をひそめた。
大事なのは誰かに頼まれたことではなく、なぜ九条社長がわざわざ倉本隆氏に自分のことを頼んだのか、ということだった。
普通なら、九条社長の恋人は柳小路のはずだから、倉本隆氏に頼む相手も柳小路であるべきだ。もしかして倉本隆氏が人違いをしているのでは?
もし九条インターナショナルに戻って、九条社長に知られたら、今までの幸せがすべて無駄になってしまうのではないか。
高橋美咲の心に不安が広がり、慌てて言った。「倉本隆さん、本当に私が九条社長に頼まれた相手なんですか?人違いじゃないですか?本当は柳小路さんのことを頼まれたんじゃないですか?」
高橋美咲がそう思うのも無理はなかった。そもそも九条社長とはそれほど親しいわけでもないのに、理由もなく助けてくれるはずがない。
高橋美咲の言葉を聞いて、倉本隆氏は少し困ったように言った。「高橋さん、僕はまだ若いし、耳もちゃんと聞こえてるよ。九条社長が言ってたのはあなたのことだ。間違えるはずがない。」
高橋美咲はあまりの驚きに言葉を失った。
その瞬間、彼女の頭の中では「九条社長が倉本隆氏に自分のことを頼んだ」という事実だけが何度も響いていた。
もしあの日、九条社長が九条蓮ではないと知っていなければ、きっと誤解していただろう。
きっと何か裏があるはずだ。九条蓮に直接、何があったのか聞きに行かなければ。
食事の途中、高橋美咲は席を立ち、トイレへ向かった。
手を洗って出てくると、見覚えのある人影と鉢合わせた。
「すみません……」高橋美咲はすぐに謝り、その人を避けて立ち去ろうとしたが、突然手首を強くつかまれた。
高橋美咲は眉をひそめて顔を上げ、表情が険しくなった。
「九条悠真?」
まさか本当に、こんなところで鉢合わせるとは思わなかった。
前回、九条家の大奥様の誕生日会で険悪な別れ方をして以来、もう二度と九条悠真と会うことはないと思っていたのに、まさかまた会うことになるとは。
「美咲、ここで誰と食事してるんだ?」九条悠真は高橋美咲の個室の方をちらりと見やり、「さっきベルタ・ジュエリーの倉本隆氏が来てるって聞いたけど、彼と食事してるのか?」と尋ねた。
高橋美咲は冷たく、よそよそしい口調で言った。「あなたには関係ありません。」
そう言い放つと、九条悠真の手を振りほどき、そのまま背を向けて立ち去った。
九条悠真は去っていく高橋美咲の背中を見つめ、険しい表情を浮かべた。今の高橋美咲は、彼のことなどまったく意に介していない。どうしてこんな関係になってしまったのか。
しばらくその場に立ち尽くした後、自分の個室に戻ろうとしたが、ふと見覚えのある人影を見つけた。
その瞬間、九条悠真の目に冷たい光が宿り、静かにその人物の後を追い始めた。
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