Chapter 477
九条蓮だけの特別な呼び名
「れ、蓮くん?」高橋美咲は少し気まずそうに言った。
その呼び方を聞いた九条蓮は、わずかに顔を曇らせ、反射的に眉をひそめた。明らかに満足していない。
黒川善への呼び方よりも親密で、自分だけの特別な名が欲しかった。
そのため、高橋美咲が口にした呼び名には満足できなかった。
「もう一度考えてくれ」
高橋美咲は頭が痛くなった。すでに考えたのに、本当に他の呼び名など思いつかない。
長い間悩み、とうとう諦めてため息をついた。「本当に思いつかない。さっきのでいいと思うけど。まさか『あなた』って呼ぶわけにもいかないでしょう?それとも『大きな赤ちゃん』?」
ようやく九条蓮は気に入る呼び名を聞いた。口元をわずかに上げ、言った。「とてもいい。『あなた』と呼んでくれ」
ぶっ……
高橋美咲は、自分の唾で窒息しかけた。適当に例を挙げただけなのに、九条蓮は本気にしたの?
黒川善の前では、厚かましく『私の夫』などと言える。だが九条蓮本人の前では、まだ控えめになってしまう。そんな甘い呼び方、口に出せるわけないでしょう!
九条蓮は高橋美咲の表情が何度も変わるのを見て、恥ずかしがっているのだと分かった。
「駄目。『大きな赤ちゃん』って呼ぶ。それなら、あなたが私の大切な人だって誰にでも分かるから!」高橋美咲は笑顔で言った。
彼女の口元に浮かぶいたずらっぽい笑みを見て、九条蓮の目が暗くなり、胸の奥に微妙な感情が揺れた。
なんていたずら好きな子だ!
手を伸ばして強く腕の中へ引き寄せると、顔を近づけ、そのまま唇に口づけた。
最初、高橋美咲は特に反応しなかった。だが二人が少し制御を失い始めていると気づくと、慌てて九条蓮を押し、顔に動揺を浮かべた。「ちょっと待って!」
今、一瞬気を抜き、もう少しで彼と何かしてしまうところだった。
嫌なのではない。ただ、あることが知られてしまうのが怖かった!
考えれば考えるほど恐ろしくなった。罠に落ちた小さな獣のように、全身を恐怖に捕らわれ、わずかな震えが止まらない。
そんな高橋美咲を見て、九条蓮は仕方なさそうに小さくため息をついた。
高橋美咲を放し、優しく言った。「すまない」
高橋美咲は落ち込んで首を振り、本当に九条蓮へ申し訳ないと思った。
全部、自分のせいだ。
あんなことが起きていなければ、九条蓮は普通の夫婦生活を送れたはずだ。今は自分の体すべてが拒絶しているのに、九条蓮は何度も受け入れ、甘やかしてくれる。
彼が優しくすればするほど、高橋美咲の罪悪感は強くなった。
今やすべてを投げ出し、九条蓮に真実を話したい衝動さえあった。
だが恐ろしい結末を考えると、やはり口に出せなかった。
それでも、このままではいけない。結局、高橋美咲は自分に期限を定めた。その時が来たら、この件を九条蓮に打ち明け、彼の判断を受け入れよう!
でも、その時とはいつ?
メゾン・ヴェルヌの責任者選考が終わってからにしよう。その時が来たら、生きることになっても死ぬことになっても、静かに受け入れる!
その夜、高橋美咲はあまりよく眠れなかった。胸の中は恐怖と不安でいっぱいで、九条蓮に事情を知られる夢まで見た。彼は激怒し、不貞な妻だと罵り、その後、一切の関係を断とうとした。
夢と現実の狭間で、高橋美咲は温かな腕の中へ落ちたように感じた。
やがて心から安心できる香りを吸い込み、ようやく深い眠りに落ちた。
翌日、高橋美咲が目を覚ますと、隣にはもう誰もいなかった。スマホにはメッセージが届いていた。九条蓮は一人で朝食を食べるよう伝え、あとで戻って一緒に過ごすと書いていた。
高橋美咲はすぐに返信し、自分のことは気にせず、仕事を済ませてきてと伝えた。
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