Chapter 476
本当に芝居がうますぎる(続き)
高橋美咲と九条蓮は病院を出た。
九条蓮は車で来ていなかったため、二人はタクシーでそのまま高橋美咲のマンションへ戻った。
家に入ると、高橋美咲はすぐに荷物をまとめ始めた。
東京へ戻って、また働く日々が始まる。メゾン・ヴェルヌの責任者選考にも応募しており、もうすぐ始まる予定だった。何着かの服をスーツケースへ入れていると、あることを思い出したように九条蓮を見上げ、尋ねた。「そういえば、あなたの荷物は?」
「ホテルにある」九条蓮は適当に理由を作った。
高橋美咲はうなずいた。「明後日、東京へ戻るつもり。あなたは九条社長と一緒に戻る?それとも私と帰る?」
九条蓮の目が少し暗くなった。「九条社長からもう休暇をもらった。君と一緒に帰れる」
その言葉を聞き、高橋美咲は心の中で少し嬉しくなった。
一人でいるのと、誰かがそばにいてくれるのとでは、まるで違う。一緒に帰れるなら本当によかった。
すると突然、あることを思い出し、残念そうに言った。「ああ、時間があまりないのが残念。そうじゃなければ、大阪を少し案内できたのに。ずっと東京にいたんだから、大阪のことはあまり知らないでしょう?」
九条蓮は彼女に合わせてうなずいた。
実際は高橋美咲と出会う前、毎月ほぼ半分を大阪で過ごしていた。そのため大阪をまったく知らないわけではない。
だが高橋美咲の前では、まだ隠し通す必要があった。
九条蓮は言った。「大丈夫だ。次に機会があれば、俺が君をここへ連れてくる」
それを聞いた瞬間、高橋美咲は満面の笑みを浮かべた。
高橋美咲と九条蓮は、これまで二人で旅行をしたことがなかった。あのキャンプ以外、一緒に出かける機会もない。もし九条蓮と二人きりで旅行できたら、考えるだけでも本当に素敵だった。
残念ながら、その美しい気分にはいつも、一つだけ不安定な要素が付きまとっていた。
東京へ戻ったら、何とかして九条家軽井沢別邸へ行き、裏にいるオーナーを調べなければならない!
それが九条悠真なのかどうか、答えを知りたかった。
九条蓮は突然、今日、高橋美咲が黒川善をどう呼んでいたか思い出した。顔を暗くして言った。「どうして黒川善を『お粥』と呼ぶんだ?」
高橋美咲は一瞬固まり、それから声を上げて笑った。
笑いながら言った。「小さい頃、お互いにあだ名を付けたの。彼は私を『小さなレモン』と呼んだから、私は彼を『お粥』と呼んだ。大人になった今では子どもっぽいけど、しばらく癖が抜けなくて」
九条蓮は、高橋美咲に呼び方を変えろとは強要しなかった。
自分にも、高橋美咲にとって特別に親しい呼び名が欲しかった。
そう考え、九条蓮は前へ出て、高橋美咲の手をつかみ、立たせた。真っ黒な瞳で、瞬きもせず彼女を見つめた。「美咲」
「な、何?」高橋美咲は急に落ち着かなくなった。
九条蓮は一体、何をするつもり?
冷たく清らかな九条蓮の香りにすっぽり包まれ、全身が少しくらくらした。
「美咲、黒川善にはあんなに親しい呼び名がある。それなら俺は?」九条蓮は低い声で尋ねた。
高橋美咲は目を見開き、今聞いたことが信じられなかった。
九条蓮は、自分にあだ名を付けてほしいと言っているの?
今日、表情には出していなかったが、やはり黒川善に嫉妬していたのだ!
「あ、あなた……何て呼ばれたいの?」高橋美咲は後ろめたそうに尋ねた。
「君が考えたものなら、何でもいい」九条蓮は真剣な目で高橋美咲を見た。彼女がどんな名を付けても受け入れるようだった。
「えっと……」高橋美咲は懸命に頭をひねった。
すると突然、二文字の呼び名が頭に浮かんだ。
高橋美咲が急に黙り、顔まで赤くするのを見て、九条蓮は口元を上げて尋ねた。「思いついたか?」
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