Chapter 475
本当に芝居がうますぎる
黒川善の視線はあまりにも強かった。何かを感じたように九条蓮が振り向くと、戸口に立つ黒川善が見えた。
高橋美咲も黒川善が来たことに気づき、笑顔になった。「お粥、来たのね」
高橋美咲が彼をそう呼ぶのを聞き、九条蓮の目がひどく暗くなった。
これほど親しげに呼ぶのだから、二人の関係が単純でないことは明らかだ。
理由もなく胸に酸っぱい感情が湧き、不愉快になった。自分の大切なものを、他人に狙われているような気分だ。だがもともと、感情を顔に出さない人間である。どれほど不機嫌でも、それを表には出さなかった。
黒川善は何事もなかったように入ってきた。
高橋美咲を見て、柔らかい声で言った。「美咲、恵おばさんの次の治療方針はもう決めた。君が確認したら、始められる」
高橋美咲は当然、黒川善を信頼していた。すぐにうなずいた。「分かった。今すぐ確認して、一日でも早く母の治療を始めよう」
母が少しでも早く目を覚ますことを願っていた。
その後、高橋美咲と黒川善は外へ出て治療同意書に署名し、高橋恵の治療をすべて黒川善に任せることにした。
高橋美咲が署名するのを見ながら、黒川善は言った。「恵おばさんが目を覚ます可能性はあるが、それがいつになるかは誰にも分からない。それに治療が長引くほど、医療費も高くなる……」
「金なら問題ない」九条蓮が突然口を開き、黒川善の言葉を遮った。
黒川善を見上げ、淡々と言った。「義母の治療費は、すべて俺が負担する。いくら必要でも、俺に連絡してくれ」
黒川善は苛立たしそうに九条蓮をにらみ、かなり不満そうだった。
この男は、どうして口を挟む?
金の話を持ち出したのは、自分の気前のよさを見せるためだった。本当は、高橋恵の医療費を免除すると高橋美咲へ伝えるつもりだった。それなのに九条蓮が割って入り、自分が金のことで高橋美咲に細かく請求する、けちな人間のようになってしまった。
自分と高橋美咲の関係で、この程度の金を気にするはずがあるか?
高橋美咲はその言葉を聞くと、一瞬固まった。それから言った。「あなたの給与口座のカードは私が持ってるのに、どこに治療費を払うお金があるの?私が自分で払うから、気にしないで」
九条蓮は優しい目で高橋美咲を見つめ、甘やかすような低い声で言った。「大丈夫だ。最悪、また別のアルバイトをすればいい」
黒川善「……」
胸に怒りがこみ上げ、憎らしさで歯がむずむずした。九条蓮は本当に老獪だ。芝居がうますぎる!
明らかに九条インターナショナルの社長で、百五十億円を超える資産を持つ大富豪なのに、高橋美咲の前では貧乏人のふりをしている!
つまり九条蓮が身分を隠しているのは、高橋美咲の同情を買うためなのか?
案の定、九条蓮の言葉を聞いた高橋美咲の顔には、感動と心配があふれた。じっと彼を見つめ、首を振った。「そんなに無理して働かなくていいよ。私だって稼げるから」
「無理じゃない。俺がすべきことだ」
黒川善は、すでに歯ぎしりの音を立てていた。
この二人は彼の目の前で、彼の気持ちなどまるで考えず、恥ずかしげもなく仲の良さを見せつけている!
軽く咳払いし、二人の会話を遮った。「ごほん……今の話は、状況を知らせただけだ。医療費は割引する」
「駄目!」高橋美咲はすぐに断った。真剣に言った。「母の治療を引き受けてくれるだけで、とても感謝してる。治療費は必ず払うよ」
九条蓮も口を挟んだ。「俺たち夫婦は、治療費を踏み倒したりしない」
黒川善の顔がまた暗くなった。九条蓮が、自分と高橋美咲は夫婦で、黒川善はただの部外者だと念押ししているようにしか思えなかった!
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