Chapter 473
昔の恋人なの?(続き)
黒川善はわずかに口元を上げ、ゆっくり言った。「美咲と私は仲のいい友人ですが、彼女に私の考えを変えさせる力はありません。九条家の若旦那が私と話をしたんです。その言葉に心を動かされ、考えを変えました。どうか誤解なさらないでください」
言い終えた瞬間、部屋にいた全員が九条蓮を見た。
黒川善と話をしたのが九条蓮だったとは、九条会長も思わなかった。この孫は、本当に自分の健康を気にかけてくれているのだ。
これまで可愛がってきた甲斐があった!
皆の視線を受けても、九条蓮の表情は穏やかなまま、少しも乱れなかった。わずかに目を伏せ、考え込んだ。
あの日の祖母の誕生日宴で、確かに黒川善と話をした。だが黒川善は、その場で頼みを拒んだ。自分に心を動かされて考えを変えたなど、まったくのでたらめだ。
根本的な理由は、やはり高橋美咲だった。黒川善は、ただ高橋美咲を助けているにすぎない。
九条蓮は片手をポケットに入れ、背筋を伸ばして立っていた。黒川善へ目を向けると、瞳の奥に冷気が揺れた。
黒川善は九条蓮の視線に気づき、薄い笑みを浮かべて見返した。少しも恐れていない。
声なき緊張が、空中でぶつかり合った。
傍らに立つ高橋美咲は、二人の男の間に漂う奇妙な空気を敏感に察した。
胸にわずかな不安が生まれ、そっと二人を見比べた。まさか九条蓮も、自分と黒川善の関係を誤解し、彼を恋敵だと思っているの?
九条会長は感激した様子で尋ねた。「蓮、いつ黒川家の当主と話をしたんだ?」
九条蓮は我に返り、淡々と答えた。「祖母の誕生日宴で、黒川家の当主が来ているのに気づき、少し話をしました。とても話しやすい方でした」
実際の黒川善は、少しも礼儀正しくなかった。九条蓮を相手に、皮肉めいた妙な態度を取っていた。
以前は理由が分からず、才能があるため傲慢なのだと思っていた。だが今なら分かる。
結局、すべて高橋美咲のためだったのだ!
高橋美咲が黒川善に何の感情も抱いていなくても、相手が高橋美咲を狙っていないとは限らない。男として、黒川善が高橋美咲に別の思惑を抱いていることは間違いないと断言できた。
九条蓮の言葉を聞くと、九条会長が抱えていた怒りは一瞬で消え、胸には感動だけが残った。険しい表情も和らぎ、低い声で言った。「蓮、よくやった」
佐伯葉月は、九条会長に高橋美咲をさらに嫌わせるつもりだった。まさか黒川善が、こうも簡単に事態を収めるとは思わなかった。
高橋美咲は無傷で切り抜けただけでなく、かえって佐伯葉月が笑いものになったようだった。
彼女は怒りで掌を強く握った。
さらに何か言おうとした時、九条蓮が冷たい警告の視線を向けた。佐伯葉月は恐ろしくなり、すぐに口を閉じた。
これから黒川善が九条会長の全身を検査する。佐伯葉月が残る理由はなく、立ち上がって帰るしかなかった。
高橋美咲と九条蓮も外へ出た。佐伯葉月はまだ九条蓮と話す機会を探そうとしたが、九条蓮は一度も機会を与えず、高橋美咲とそのまま去った。二人が遠ざかるのを見て、佐伯葉月の顔は怒りで暗くなった。
少し離れたところまで来ると、九条蓮は申し訳なさそうな顔で言った。「美咲、祖父は少し頑固なんだ。気にしないでくれ」
罪悪感に満ちた九条蓮の表情を見て、高橋美咲は口元に笑みを浮かべた。「気にしないよ。心配しないで。私がそんなに弱い人に見える?」
九条蓮は長い間、彼女を見つめた。高橋美咲の表情は自然で穏やかで、無理をしている気配は少しもない。本当に気にしていないようだった。
彼女を不憫に思う一方、胸の奥にはかすかな感動も湧いた。
高橋美咲のような素晴らしい女性は、大切に慈しみ、守るに値する。
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