Chapter 47
匿名の動画(続き)
「ち、違うの。さっき広告か何かを間違えて押しちゃって……」
「うん。」九条蓮は何事もなかったかのようにスマホを返してくれた。
高橋美咲はこっそり彼の顔をうかがったが、からかうような表情は一切なかった。どうやら説明を信じてくれたらしい。彼女はそっと安堵の息をついた。
さっきの動画の映像を思い出し、高橋美咲の心に一瞬の疑問がよぎる。
桜井奈緒は九条悠真と婚約間近のはずなのに、なぜ彼の目を盗んで浮気を?
さらに気になるのは、この動画を送ってきたのが誰なのかということだ。
まあいい。いずれにせよ、この動画は自分にとって都合がいいものだった。
翌日、高橋美咲は目を開けた。しばらくぼんやりしてから、ここが病院だと思い出す。
昨夜は意外とよく眠れて、慣れないベッドでも特に問題はなかった。
隣から微かな寝息が聞こえる。顔を向けると、九条蓮が折りたたみベッドに体を縮めて寝ていて、なんだかとても不憫に見えた。
美咲の胸に一瞬罪悪感がよぎり、同時に少し心が温かくなる。勢いで結婚したとはいえ、この人は意外と責任感がある。
不思議な感情が心に湧き上がる。
九条蓮も目を覚ました。固く閉じていた瞳が開き、眠たげで深い目が現れる。
美咲は自分がじっと見つめていたことに気づき、慌てて視線をそらした。
彼は起きて身支度を整えると、病室を出ていった。
その時、看護師が美咲の処置をしにやってきた。手当てをしながら、真剣な口調で言う。「高橋さん、ご主人と本当に仲が良いんですね。」
美咲は気まずそうに返事をした。
思いがけず、看護師は話題を変え、美咲の体の傷を見ながら言った。「でも、まだお体が治っていないので、もう少し控えめにしてくださいね。完治してからご夫婦の生活を楽しんでください。」
それを聞いて、美咲は泣きたくなった。
昨夜の桜井奈緒の動画の音が大きすぎて、誤解されたに違いない。この看護師は、まさか自分と九条蓮が病室で何か恥ずかしいことをしたと思っているのでは?
なぜいつも自分ばかりがとばっちりを受けるのか。
美咲は、起きている間ずっと濡れ衣を着せられている気分だった。
看護師も美咲の気まずさに気づき、話しすぎたと感じた。病院ではいろいろなことが起きるし、これくらい普通のこと。少なくとも美咲と九条蓮は夫婦だし、患者の家族同士が知らない間に親しくなることも見てきた。
看護師はすぐに美咲を慰め、「気にしないでくださいね」と声をかけた。
美咲は軽く咳払いをして話題を変える。「退院はいつできますか?」
看護師はそれ以上何も言わず、にこやかに「あとで主治医に聞いてみますね。お怪我も大したことはありませんし、特に不調がなければ退院できると思います」と答えた。
ただ、この若奥様のご主人が心配しすぎて、入院を強く希望されたから、昨日でも退院できたはずなのに。
看護師はそう言い終えると、道具を片付けて病室を出ていった。
バンッ!突然、病室のドアが勢いよく開け放たれた。
「美咲!」九条凛が嵐のように飛び込んできて、不満げに叫ぶ。「どうして怪我したの?誰がやったの?絶対許さない!刺してやる!ひどすぎる!」
美咲は顔を上げて「凛」と呼んだ。
凛は美咲に何かあったと連絡を受け、急いで駆けつけた。ギプスや包帯姿を見て怒りが収まらず、犯人を引きずり出して罵倒したくなった。
「もう犯人は分かったの?」と凛が尋ねる。
美咲は首を振り、「まだ。調べる時間がなかったから、回復してから対処するつもり。でも、いいものは見つけたよ」と答えた。
凛はすぐに食いつく。「何それ、いいものって?」
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