Chapter 46
匿名の動画
「一人じゃ不便だろう。」九条蓮は淡々と口にした。
だが高橋美咲には、その声がいつもより優しく感じられた。彼は彼女が一人でいるのを心配して、わざわざ残ってくれたのだ。
「あ……」高橋美咲の口元にかすかな笑みが浮かび、胸がじんわりと温かくなった。
九条蓮の視線が彼女の手元に落ちる。「シャワー浴びるのか?」
高橋美咲はうなずいた。
「手伝おうか?」九条蓮が尋ねる。
高橋美咲の頬が一気に赤くなり、すぐに首を振った。「大丈夫!自分でできるから。迷惑かけたくないし!」
たとえ夫婦になったとはいえ、まだお互い裸を見せ合えるほどの関係ではない。少しぐらい苦労しても自分でやりたいのだ。
九条蓮は赤くなった高橋美咲の顔をじっと見つめた。
目を細め、ゆっくりと言う。「介護士を呼ぶのを手伝うって意味だったんだ。何を想像してた?」
「……」自分の頭が変な方向にいっていたのだ。恥ずかしい!
結局、変な誤解をしていなかったことを証明するためにも、高橋美咲は九条蓮の提案を丁寧に断った。最近は介護士も高いし、数万円もかかる。自分で何とかできるのだから、無駄遣いする必要はない。
高橋美咲がシャワーを終えるまで、結局一時間半もかかった。
バスルームから出てくると、九条蓮はすでに折りたたみベッドを広げ、彼女の病室のベッドのすぐ隣に置いていた。
高橋美咲は個室に入院しており、他に誰もいない。
九条蓮によれば、最近は病院の患者が減っていて、医師も彼女の症状を比較的重いと判断したため、個室を用意してくれたという。しかも料金は普通の部屋と同じだそうだ。
最近は本当に病気になる人が少ないのかと、高橋美咲は感心した。病院に空き部屋があるなんて。
実際には、九条蓮が裏で手を回していたことなど、彼女は知る由もなかった。
高橋美咲が身支度をしている間に、真壁直人はすでに九条蓮に桜井奈緒と柏木健人の動画を送っていた。九条蓮はそれを見終えると、真壁直人に匿名で高橋美咲にも送るよう指示した。
高橋美咲がベッドに横になる頃、彼女のスマホにメールが届いた。
そのメールは匿名で、件名には桜井奈緒の名前が記されていた。
暗い画面を見つめながら、彼女は興味本位で再生ボタンを押した。
最初に映ったのは監視カメラの映像だった。桜井奈緒と男がホテルに入っていく姿が映り、右上にははっきりと時間が表示されている。
高橋美咲は目を見開いて驚いた。今日の出来事だったのか?
動画の女性は確かに桜井奈緒だが、男は九条悠真ではない。もし間違いなければ、九条インターナショナルの幹部の一人に似ている気がする。
桜井奈緒とこの男はまさか……?
彼女はさらに注意深く動画を見始めた。
高橋美咲が思考停止していると、映像は室内に切り替わり、二人は火がついたようにベッドに倒れ込んだ。
「んっ……あっ……」
意味深な吐息と男の荒い息遣いが病室に響き、高橋美咲の心臓は止まりそうになった。
慌てて動画を閉じようとしたが、焦れば焦るほどうまくいかない——しかも使える手は片方だけ!
もともと左手は不器用なのに、動揺していたせいでスマホを落としてしまった!
床に落ちたスマホからは、さらに激しい音が流れ続ける。
高橋美咲は九条蓮の顔を見る勇気もなく、必死でベッドから起き上がりスマホを拾おうとしたが、傷口を引っ張ってしまい、痛みで涙がにじみ、動きが鈍くなった。
すっと伸びた手がスマホを拾い、あっさりと動画を止めてくれた。
やっと、あの際限ない淫靡な音が止んだ。
高橋美咲はまるで戦争を終えたかのように、全身汗だくで震えていた。しかもスマホはまだ九条蓮の手の中。
彼に、こんなエッチな動画を見ている変態だと思われたらどうしよう。
ああ、もうこの場で消えてしまいたい!
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