Chapter 458
九条社長じゃなくてよかった
九条家の大奥様が高橋美咲を招いたと知った時点で、彼女をどれほど気に入っているか、九条蓮にはもう分かっていた。
九条家の大奥様が自分へ親しく接してくれたことを思い出し、高橋美咲の気分はかなり良くなった。
九条蓮の気持ちさえ揺るがなければ、彼と一緒に歩み続けられる。
喜んだのも束の間、九条家軽井沢別邸で起きたことを思い出し、心が一瞬で半分冷えた。
自分と九条蓮は事故のようなきっかけで結ばれ、ようやくここまで来たのに、あんなことが起きた。女の子にとって最も大切なもの――純潔を失い、これからは九条蓮の前で、ずっと引け目を感じるだろう。
そして心の奥には、まだ恐れと劣等感があった。
実際、九条蓮が九条社長かもしれないと知った時、何より強く感じたのは恐怖だった。
自分では九条蓮に釣り合わないという恐怖。
九条社長ではなくて、本当によかった。
九条蓮はしばらく静かに高橋美咲を抱き締めてから、何気なく尋ねた。「黒川善とは、かなり親しいのか?」
黒川善と高橋美咲の関係については、すでに知っていた。それでも高橋美咲自身の口から聞きたかった。彼女の心の中で、黒川善が本当はどんな位置を占めているのか知りたかったのだ。
「黒川善のこと?私たちは一緒に育ったの。ただ高橋家と決別した後、大阪にいた皆とのつながりも絶った。最近、母の容体が少し良くなったから、黒川善に治療を続けてもらおうと思ったの」
高橋美咲は、黒川善との関係を簡単に説明した。
話を聞いた九条蓮の目が、わずかに揺れた。
どうやら高橋美咲は、黒川善に特別な感情を抱いていないらしい。黒川善も同じかどうかは保証できないが、少なくとも高橋美咲にその気がない。それだけで安心できた。
話し終えた高橋美咲は、突然あることを思い出し、尋ねた。「今の私は、ただの普通の人。高橋家という後ろ盾もないから、自分で努力するしかない。それでも気にしない?」
桜井奈緒が自分になりすまし、高橋家の身分を利用したことで、九条悠真は桜井奈緒のもとへ飛び込んだ。高橋美咲は今になって、九条蓮も九条悠真と同じなのだろうかと尋ねたくなったのだ。
九条蓮には当然、高橋美咲の考えが分かっていた。
彼は目を細めて言った。「俺を九条悠真と一緒にするな。自分の女を養う金くらい、俺が稼ぐ」
それを聞き、高橋美咲の口元に薄い笑みが浮かんだ。
九条蓮の言葉は本当に強引だが、責任感にあふれ、大きな安心感を与えてくれた。彼は九条悠真とは違う。九条悠真など、どうして彼と比べられるだろう?
「さっき、九条社長が大きなことを準備してるって言ってたよね。一体何なの?」
九条蓮は意味ありげに笑った。「行こう。宴会場へ戻れば、もうすぐ分かる」
「でも、さっき黒川善が……」
「大人の男だ。着替えたら自分で戻ってくる。君が心配する必要はない」
高橋美咲は、九条社長に関する大きなことが気になっていた。結局、九条蓮に付いて宴会場へ戻った。
宴会場の隅では、佐伯大輔と佐伯葉月が険しい表情をしていた。
さっき黒川善が現れたせいで、高橋美咲に注目を奪われ、二人は完全に面目を失った。
受けた屈辱を思い出すと、佐伯葉月の目が赤くなった。
もともとは華やかに登場するつもりだった。それなのに結果はあの有様だ。最初に現れた時はあれほど威勢がよかった分、その後は同じだけ恥をかいた。
この後に控えていることがなければ、二人とも恥ずかしさのあまり、もうここに残れなかっただろう。
佐伯大輔は目を暗くして言った。「さっき九条会長は、誕生日宴で我々両家の縁組を発表すると言っていた。先ほどあの女は他人の威光に乗って注目をさらったが、結局、我々こそ正式な相手だ。この知らせが発表されれば、あの女には何の名分も立場もない。そうなれば正妻として、どう始末しようと誰にも文句は言われない!」
You might also like




