Chapter 44
側溝で転覆しないように気をつけて
九条蓮は割り箸を開けて料理をつまみ、高橋美咲の口元に運んだ。
口に入った食事を噛みながら、高橋美咲はふいに目頭が熱くなった。
高橋正人のことを思い出してしまった。
子供の頃は高橋正人がとても可愛がってくれて、好き嫌いして食べたくない時も優しくなだめてくれたり、時には自ら食べさせてくれたりした。
でも、あの女が現れてから全てが変わった。
今では高橋正人の愛情は、きっとあの女とその子供に向けられているのだろう。
高橋美咲は胸の苦しさを食事と一緒に飲み込んだ。
ふと、口元にご飯が差し出され、現実に引き戻された。顔を向けると、九条蓮の端正な顔立ちがすぐそばにあり、静かで優しい表情を浮かべていた。
九条蓮の顔立ちは本当に整っている。彫りが深く、鼻筋も高い。薄い唇はきゅっと結ばれていて、どこか冷たく無表情だが、それでもとても魅力的だった。
特に今のように真剣な眼差しで見つめられると、心が揺さぶられずにはいられなかった。
今、自分に食事を食べさせてくれているのは、この人なんだ。
高橋美咲の胸に温かいものが込み上げ、鼓動が速くなった。
さっきまでの沈んだ気持ちが一気に晴れていく。
実は、九条蓮って結構いい人かもしれない。
彼が食べさせてくれる料理を素直に口に運び、高橋正人のことは頭の隅に追いやった。
二人はそれ以上言葉を交わさず、一人が世話をし、一人がそれを受け入れる。まるで普通の夫婦のように、穏やかで温かな時間が流れた。
食事が終わると、九条蓮は片付けをして部屋を出ていった。
病室の外の廊下に出ると、九条蓮は携帯を取り出して真壁直人に電話をかけた。すぐに繋がり、「九条社長」と真壁直人の声が聞こえた。
「柏木健人を釈放しろ。」
「えっ?」真壁直人は驚いた様子で、なぜ急に釈放するのか分からなかった。さっきまで九条蓮は激怒していて、柏木健人を二度も蹴り、吐血寸前だったのに。
真壁直人が何か言う前に、九条蓮は続けた。「それと、誰かをつけて行動を監視しろ。逐一報告するように。」
その言葉で真壁直人はすぐに察した。九条蓮には何か考えがあるのだろう。「承知しました。」と答えた。
…
その頃、拘束されていた柏木健人は、顔中腫れ上がり、いくら助けを求めても誰も応じてくれなかった。
自分はなんて運が悪いんだ、と痛感していた。
高橋美咲のリグを細工したとき、監視カメラの映像はすべて消したはずなのに、なぜか自分が特定されてしまった。あの人、本当に恐ろしいほど有能だ。
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側溝で転覆しないように気をつけて
つい先ほど、真壁直人が見知らぬ男を連れてきて自分を尋問した。その男は圧倒的な存在感を放ち、絶対に逆らってはいけない死神のような雰囲気を持っていて、容赦なく自分を殴りつけた。
柏木健人は顔をさすり、後悔の念でいっぱいだった。
結局、桜井奈緒と寝ることもできず、こんな厄介ごとに巻き込まれてしまった。割に合わないにもほどがある。
この先自分がどうなるのか、まったく見当もつかなかった。
柏木健人があれこれと考えを巡らせていると、部屋のドアが開いた。真壁直人が外から入ってきて、柏木健人はすぐに身を乗り出し懇願した。「真壁さん、本当に反省してます。どうか許してください!」
真壁直人は冷たい視線を向けた。「本当に反省してるのか?」
「はい、はい!」柏木健人はとりあえず様子をうかがうつもりで言ってみただけだったが、真壁直人の口調からすると、本当に解放される可能性があるのではと感じ、
さらに必死に懇願した。
思いつく限りのへりくだった言葉を並べ、地面に頭をこすりつける勢いで謝った。
しばらくして、真壁直人は心動かされたように言った。「わかった。反省したなら、今すぐ解放してやる。」
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