Chapter 439
彼女の思い通りにはならない
どうやら、あの人が言っていたほど悪い子じゃなさそうだ。
……
しばらくして、高橋美咲と九条凛が支度を終えて一緒に本館のホールへ向かっていると、廊下で見覚えのある人影を見かけた。
その人物に気づいた高橋美咲は、目を見開き、信じられない気持ちになった。
驚いて「善くん、どうしてここに?」と声を上げた。
その瞬間、高橋美咲は黒川善に言われた警告を思い出した。もしかして、黒川善も自分のことを心配して、わざわざ様子を見に来てくれたのだろうか。
九条凛はまだ九条蓮を探してきょろきょろしていたが、高橋美咲が親しげに呼びかけるのを聞いて、すぐに意識を戻した。
そして目の前の男性に気づき、警戒心が一気に強まった。
その男性は高級な白い中山服を着こなし、洗練された雰囲気をまとっていた。どこか浮世離れした存在感があり、ひときわ目を引く。誰なの?どうして高橋美咲とこんなに親しそうなの?
九条凛は驚いて尋ねた。「美咲、その人知り合いなの?」
高橋美咲はうなずいた。「幼なじみで、とても仲がいいの。」
九条凛の表情が一気に固まり、心の中で警報が鳴り響いた。
やばい!高橋美咲の本命幼なじみが現れた!
黒川善は高橋美咲の隣の女の子が自分に敵意を向けているのに気づいたが、理由は分からないまま、いつも通り落ち着いていた。
彼の視線は高橋美咲に向けられ、そこには憧れと愛情がにじんでいた。
これこそ彼の知る高橋美咲——誇り高く美しい、誰もが心惹かれる女性。埃をかぶった真珠のような彼女が再び光を浴びれば、本来の輝きを放つに違いない。
高橋美咲の隣にいる男性が九条蓮かもしれないと疑った時、何か違和感を覚えたので、自分の目で確かめに来たのだった。
九条凛は黒川善の視線を見て、さらに胸がざわついた。
あの目つき……絶対ただの友達じゃない。あれは男が女を見る目だ。
警戒しながら尋ねた。「あなた、誰?」
「こんにちは、僕は美咲の……」黒川善は軽く笑い、「親しい友人です。」とゆっくり答えた。
彼は、そう遠くないうちに「親しい友人」を「恋人」に変えられると信じていた。
九条凛はにこやかに返した。
この男の高橋美咲への気持ちが単純じゃないのは、百パーセント間違いない!
兄の恋のライバルが現れた!
その時、アシスタント風の男性が近づき、黒川善の耳元で何かをささやいた。黒川善はうなずき、高橋美咲に「美咲、ちょっと用事があるから席を外すね。あとでまた会いに来るよ。」と言った。
黒川善はその男性とともに去っていった。
彼がいなくなると、九条凛はすぐに高橋美咲の腕をつかみ、立て続けに三つ質問を浴びせた。「美咲、あの人誰?なんで今まで聞いたことないの?本当に仲いいの?」
さっき黒川善は名前を名乗らず、高橋美咲もあだ名で呼んでいたので、九条凛には両親がずっと探していた人物が目の前に現れていたことも、彼女が九条蓮の恋のライバルだと勘違いしていたことも分からなかった。
高橋美咲は少し困ったように首を振り、「隣に住んでたお兄さんだよ。ずっと一緒に育ったの。あの時、大阪を離れてから、こっちの人たちとは全部連絡を絶っちゃって……」と答えた。
今思えば、ちょっと極端だったかもしれない。高橋家と縁を切るだけでよかったのに、黒川善のような大切な友人とも疎遠になってしまったのだから。
でも、今回お母さんのことで状況が好転したのも、黒川善が助けてくれたおかげだった。もし彼がいなければ、今もどうしていいか分からなかっただろう。
でも幸い、また仲直りして、以前のように親しくなれたのだった。
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