Chapter 429
黒川家を巻き込め
監視カメラの映像には音声がなかったため、九条家の大旦那様には高橋美咲が何を話しているのか聞こえなかった。ただ、彼女が何かを話している様子と、九条家の大奥様がすっかり引き込まれている様子だけが見て取れた。
その様子に九条家の大旦那様は焦りを感じ、深く眉をひそめて後ろに控える明さんに「今すぐ手配しろ。あの女が何を言ったのか、俺は聞きたい!」と命じた。
明さんは少し困った様子を見せたが、すぐに「かしこまりました。何とか方法を考えてみます」と返事をした。
ほどなくして、明さんはすべての手配を終えた。
ナプキンや爪楊枝の補充を口実に、店員が高橋美咲たちのテーブルに追加の備品を運んだ。その中には会話をリアルタイムで送信できる盗聴器が隠されていた。
やがて盗聴器から高橋美咲の声が流れてきた。
「私の友人で、ものすごく腕のいいお医者さんがいるんです……」
九条家の大旦那様は小さく鼻を鳴らした。やはり高橋美咲はこれで九条家の大奥様に取り入ろうとしているのだ。
彼女の身分や背景で、いったいどんなすごい人物を知っているというのか。自分ですら口説き落とせなかった黒川家以外、他の医者など大したことはないと思っていた。
ふん、どんな手で人を惑わしているのか、しっかり聞いてやろうじゃないか。
……
九条家の大奥様は高橋美咲に九条家の大旦那様の体調について尋ねられ、つい自分の本音が出てしまうのを恐れて、少し大げさに話してしまった。そうすれば高橋美咲に怪しまれずに済むと思ったのだ。
それを聞いた高橋美咲は、ふと黒川善のことを思い出した。
黒川善は漢方を学んでいたが、その腕前は抜群だった。九条家の大旦那様の診察をお願いできないだろうか、と考えた。
だが、昨日黒川善が言っていた通り、彼の診察予約はすでに来年まで埋まっている。彼女と親しい間柄でなければ、高橋美咲の母の治療も引き受けてくれなかったはずだ。そのことを思い出し、改めて黒川善への感謝の気持ちが湧いた。
九条蓮のお祖父様の診察を黒川善に頼めるかどうか、聞いてみるくらいならできる。たとえ順番待ちになっても構わない。
高橋美咲は心の中でそう決め、「私の友人で、すごく腕のいいお医者さんがいるんです。慢性的な病気の治療や管理がとても得意で……一度、九条のお祖父様を診ていただけるか聞いてみます」と伝えた。
高橋美咲の言葉を聞いて、九条家の大奥様の目に一瞬、感情がよぎった。
実は電話で話したとき、高橋美咲は九条蓮のお祖父様が病気だと聞き、それでわざわざ大阪まで会いに来てくれた。そして今もまた九条家の大旦那様の健康を気にかけている。
長年の人を見る目からしても、高橋美咲は本当に思いやりのある、孝行な子だと感じていた。
監視室で九条家の大旦那様は顔を強張らせ、「医者を連れてきて俺の機嫌を取ろうなんて、甘い夢を見ているな。本当に黒川家の人間を連れてこられるなら、俺も認めてやるし、完全に降参だ。だが、どうせ他のヤブ医者だろう」とつぶやいた。
明さんも「会長、黒川家の当主・黒川善先生は本当に腕が立ちますが、あの方は気位が高すぎます。何度も招待状を送りましたが、順番を飛ばすのは絶対に認めないと断られました。他の患者さんに不公平だとまで言われて……」と口を挟んだ。
九条家の大旦那様は眉間に深いしわを寄せた。黒川善は確かに実力がある。若い者は時に頑固で、権力を恐れないものだ。
その勇気はむしろ感心する。どうせ命に関わる病気でもないし、少しぐらい待たされても構わない。
You might also like




