Chapter 42
旧友を訪ねて
高橋美咲は彼を疎ましく思い、ずっと距離を置こうとしていた。美咲が許してくれるまでは、彼女の気持ちを尊重しようと決めていたため、あえて曖昧に答えたのだった。
「そうなんですね。私も親しい友達のお見舞いに来たんです。」
桜井奈緒は特に気に留めることもなく、高橋美咲と高橋正人を結びつけて考えることもなかった。美咲はごく普通の家庭の出身で、母親は植物状態だと、大学時代の4年間で既に把握していたからだ。
二人は簡単な挨拶だけを交わし、高橋正人はそのままエレベーターに乗って去っていった。
桜井奈緒はぼんやりとエレベーターの扉を見つめていた。
九条悠真との婚約の日が近づいているのに、まだ妊娠していない。このままでは披露宴の時、どうやってごまかせばいいのか全く見当がつかなかった。
桜井奈緒は気を取り直し、高橋美咲の病室へと向かった。
病室の中では、高橋美咲が毛布を頭までかぶっていた。
高橋正人の突然の訪問で、幼い頃の記憶が蘇った。彼が去った後、長年積もり積もった孤独や恨みが雪崩のように押し寄せ、ついに感情が崩壊してしまった。
だから、誰にも弱さを見せたくなくて、毛布の中に隠れるしかなかった。
その時、桜井奈緒が病室のドアを開けて入ってきた。ベッドの上には小さな山のように毛布が盛り上がり、美咲がその中に隠れているのが見えた。
桜井奈緒は眉をひそめ、毛布を引き剥がそうと前に出た。
思いがけず、美咲はしっかりと毛布を握りしめていた。桜井奈緒がさらに力を込めても、美咲はまるで毛布と一体化したかのように絶対に離さなかった。
毛布の中で、美咲は高橋正人が戻ってきて、毛布を奪おうとしているのだと思い込んでいた。
怒りが心の底から湧き上がる。最後の引っ張り合いで、突然手を離し、激しく叫んだ。「いい加減にしてよ!」
桜井奈緒は思い切り引っ張った直後だったので、美咲が急に手を離すとは思わず、バランスを崩して後ろに倒れ、顔から床に突っ伏した。
美咲は桜井奈緒が床に倒れているのを見て、動きを止めた。
まさか彼女だったとは思わなかった。
桜井奈緒は床から起き上がり、美咲の様子をしばらくじっと観察した。まるで容態を確認するかのように。
美咲の表情は一気に冷たくなり、「何しに来たの?」と問い詰めた。
怪我をした後、誰が自分を陥れたのか考えたことがあった。
一番怪しいのは桜井奈緒だ。
東京に来たばかりで土地勘もなく、恨みを持つ相手は桜井奈緒しかいない。まさか九条悠真が自分を殺したいほど嫌っているとは思えない。
確かに九条悠真は少し酷いところはあるが、そこまで非道ではないはずだ。
今はまだベッドで寝たきりで、桜井奈緒に構っている余裕はない。元気になったら、必ずきっちりケリをつけてやる!
桜井奈緒は、美咲が包帯だらけで片手はギプス、しかも元気そうに話しているのを見て、少し落胆した。
まさか美咲が生き延びるとは思っていなかった。
でも、腕も足も分厚い包帯でぐるぐる巻きになっているのを見れば、もう障害者になったのかもしれない。九条家が障害者の女性を嫁に迎えるはずがない。
桜井奈緒の口元がわずかに満足げに吊り上がった。
美咲はその口元の動きをはっきりと見て、桜井奈緒が自分を殺そうとした犯人だと確信した。
なんて卑劣な女だろう。恋人を奪っただけでなく、まだ自分を許さないなんて。
美咲の顔はさらに険しくなり、「人に知られたくないなら、最初からやらなきゃいいのに。自分の仕掛けた罠が自分に返ってこないよう、気をつけなさいよ!」と吐き捨てた。
美咲の鋭い視線に、まるで全てを見抜かれたような気がして、桜井奈緒は一瞬だけ良心の呵責を覚えた。
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