Chapter 414
高橋美咲には手を出すな
……
周囲の嘲笑混じりの声を聞きながら、柳小路の顔は青ざめ、表情はこわばり、両手はぎゅっと握りしめられていた。
まさかこんな結末になるなんて、全く予想していなかった。
高橋美咲を陥れてメゾン・ヴェルヌから追い出すつもりだったのに、逆に自分が重大な懲戒処分を受ける羽目になったのだ。
さっきの九条社長の冷たい口調を思い出すと、もし本当にもう一度ミスをしたら、今度こそクビになるだろうと柳小路は感じた。このまま高橋グループにみっともなく戻れば、きっと皆の笑い者になるに違いない。
どうして九条社長はあの女、高橋美咲をかばうの?
もしかして、まだ未練があるの?
だって自分は高橋美咲から彼を奪ったのだから、柳小路はどうしても不安でたまらなかった。胸の奥に焦りがこみ上げる。九条社長をつなぎとめなきゃ!
今すぐにでも九条社長に電話して謝りたかった。
柳小路はもう何も言わず、そのまま踵を返して去っていった。
柳小路が出て行った後、残ったのは他のメゾン・ヴェルヌの社員たちだけだった。一番顔色が悪かったのは加藤千尋だ。柳小路には九条社長の強力な後ろ盾があると思い込み、高橋美咲を追い出せると信じていたのに、まさか柳小路がこんな目に遭うとは思ってもみなかった。
森川茉莉は加藤千尋をちらりと見て、遠慮なく言い放った。「さっき誰かが、九条社長が来たら高橋部長は終わりだって言ってたけど、全然終わってないよね。むしろ柳小路の方がひどい目に遭ったじゃん!」
加藤千尋はそれを聞いて顔が真っ赤になった。
これ以上森川茉莉にからかわれるのは耐えられず、悔しそうな表情でその場を立ち去った。
これで皆の高橋美咲への見方も変わり、同時に心の中で「この人には絶対逆らわないようにしよう」と密かに肝に銘じた。
高橋美咲は森川茉莉に「もう大丈夫だから、帰りなさい。これ以上待ってるとLに乗り遅れるわよ」と声をかけた。
ちょうど終業間際の出来事で、すっかり時間が押してしまっていた。
森川茉莉は何度も頷き、感謝の気持ちでいっぱいの表情で高橋美咲を見つめた。目を輝かせて「高橋部長、すごすぎます!これからはずっと高橋部長を崇拝します、私の憧れです!」と言った。
それを聞いて、高橋美咲は困ったように微笑んだ。
まさかうっかり若い子の心まで掴んでしまうとは思わなかった。森川茉莉の目は尊敬でいっぱいだった。
でも、こうして用心深くなったのも、過去の血と涙の教訓があったからこそ。
特別な能力があるわけじゃない。何度も痛い目を見てきたから、これが身に染みついた反応なのだ。
でも、ファンが一人増えるのも悪くないかもしれない。
その時、水城圭介が再びオフィスに戻ってきた。
彼は九条蓮の前に恭しく立ち、今起きたことをすべて報告した。最後に「九条社長、件はすでに処理済みです。あの動画も公開しますし、デザイナーの件も引き続き交渉して、影響を最小限に抑えるよう努めます」と付け加えた。
実は水城圭介は少し不安だった。柳小路を直接クビにしなかったことで、九条蓮が不満に思うのではないかと心配していたのだ。
彼は緊張して拳を握りしめ、九条蓮の判断を待った。
九条蓮は一通り聞き終えると、ただ淡々と「うん」とだけ返し、「分かった」と言った。
そうしてコートを手に取り、立ち上がってそのまま去っていった。
九条蓮が追及しなかったことで、水城圭介はすぐに安堵の息をつき、張り詰めていた体の力が抜けた。
助かった!
九条蓮は自分を責めなかった。
街に灯りがともり始め、道路脇の街灯もすでに点灯していた。オフィスビルには、まだいくつかの明かりが残っているだけだった。
九条蓮の車がゆっくりと路肩に停まり、彼はふと上階の方を見上げた。
メゾン・ヴェルヌの部署の明かりはまだついている。高橋美咲もそろそろ降りてくるはずだ。
その時、突然携帯が鳴った。九条凛からの電話だった。彼はスワイプして応答した。「もしもし。」
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