Chapter 401
私を拒まないで(続き)
キッチンで、九条蓮の口元がわずかにほころぶ。
さっきは、ただ様子を見ていただけだ。
そして、結果にはとても満足している。
高橋美咲は少し抵抗したものの、完全に拒絶したわけじゃない。きっと本当に心の傷があるだけで、それさえ乗り越えれば大丈夫だろう。
時間が経てば、きっとまた自分を受け入れてくれる——そう信じている。
その夜、二人は寝る準備をしていた。
料理中のあの出来事があったせいで、高橋美咲は本当に落ち着かない。九条蓮がまた急にあんなことをしてきたらどうしよう。
バスルームでずっと迷っていたが、これ以上は引き延ばせず、ついにドアを開けて出てきた。
九条蓮はベッドで本を読んでいて、灯りはベッドサイドランプだけ。
高橋美咲が出てきたのを見ると、九条蓮は本を閉じて彼女を見つめた。
高橋美咲は一瞬、猫の首をつかまれたように固まって動けなくなる。
彼女の緊張に気づいたのか、九条蓮は優しい声で「どうしたの?こっちにおいで」と言った。
「うん……」
高橋美咲は不安そうにベッドに近づき、そっと隣に横になった。
すると突然、九条蓮が手を伸ばした。思わず毛布をぎゅっと握りしめ、息を止めて全身がこわばる。
だが、彼はただ灯りを消し、頭を撫でて「おやすみ。いい夢を」と優しく言った。
まったく、高橋美咲は九条蓮が何かしでかすのではと身構えていた。
そのせいで心臓が飛び出しそうになった。
やがて高橋美咲の体から力が抜け、緊張がほぐれると、急に眠気が襲ってきて、そのままゆっくりと眠りに落ちた。
…
翌日、高橋美咲がオフィスに到着すると、森川茉莉にメゾン・ヴェルヌの責任者選挙へのエントリー手続きを頼んだ。
森川茉莉はその話を聞いて驚いた表情で高橋美咲を見つめ、「高橋取締役、昨日まではあまり乗り気じゃなかったのに、どうして急に気が変わったんですか?」と尋ねた。
たった一晩でのこの変わりようは、本当に意外だった。
高橋美咲は口元に微笑みを浮かべて、何気なく「なんだか急にやりたくなったの。別に制限もないでしょ?早く手続きしてきて」と言った。
「了解です!」森川茉莉は嬉しそうにその場を離れた。
今や彼女は高橋美咲のアシスタント。高橋美咲が昇進すれば、自分も一緒に上がれるのだから、当然気合いが入る。
エントリー用紙は九条インターナショナル本社から派遣された専任スタッフが回収し、まとめて上層部に提出されることになっていた。
メゾン・ヴェルヌの社員の半数以上がすでにエントリーしていた。
柳小路はちょうどエントリー用紙を提出し、専任スタッフのそばに立っていたが、そこへ森川茉莉がやってくるのを見て、すぐに眉をひそめた。
加藤千尋は柳小路の隣にいた。表向きは柳小路の付き添いとして来ていると言っていたが、実際は自分もチャンスを狙っていた。
柳小路は、この選挙が上層部の発表であることから、どうせ自分を正々堂々と責任者に据えるための茶番だろうと内心思っていた。そうでなければ、こんな大げさなことはしないはずだ。
彼女の隣にいた、全身ブランド物で固めた女性がすかさず「森川茉莉、まさかあなたも選挙に出るつもりじゃないでしょうね?」と声をかけた。
「私じゃないですよ。高橋取締役が出馬します!」
柳小路は高橋美咲が出馬すると聞くと、すぐに鼻で笑い、まったく相手にしていない様子だった。
「あの人が出るの?下書きの修復はもう終わったの?こんなことにまで手を出す余裕があるなんて、笑わせるわ!」
森川茉莉は柳小路のことなど気にも留めず、手に持っていた書類を提出した。
そしてすぐにその場を後にした。
森川茉莉のその堂々とした態度に、柳小路は顔色を変えて怒りをあらわにした。
くそっ。自分が責任者になった暁には、絶対に高橋美咲と、あの目障りなアシスタントを追い出してやる。
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