Chapter 397
もちろん、もっと彼女に近づくべきだよ
それ以外に理由は思い当たらなかった。
九条蓮はその言葉を聞いて、後悔の色を浮かべた。自分が高橋美咲を傷つけてしまったのかもしれない。
「でも、解決策がないわけじゃないよ!」九条凛は真剣な顔で言った。「高橋美咲に心の影があるなら、その影を打ち破ればいいんだよ!」
「どうやって?」
「もちろん、もっと彼女に近づくこと!慣れれば、もう抵抗しなくなるって!」九条凛は恋愛経験こそ少ないものの、恋愛相談となると次から次へとアドバイスが出てくる。それもこれも、読んできた小説の数が多いおかげだった。
女の子を口説くテクニックなんて、何でも知っているつもりだった。
だから今、九条蓮にアドバイスする彼女の口調は、妙に説得力があった。
九条蓮は彼女の話を聞いて納得し、心の中のもやもやが一気に晴れた。
…
メゾン・ヴェルヌで責任者を選ぶという話は、あっという間に部署中に広まった。
その知らせを聞いた多くの人が、みんな興奮して盛り上がった。
告知には、メゾン・ヴェルヌの社員の中から選ぶとしか書かれておらず、条件も特に記載されていなかった。つまり、誰でも立候補できるということだ。
こんなチャンスは一生に一度あるかないか!
挑戦してみたいという人がかなりいた。
柳小路もとても嬉しそうだった。ついさっき、九条社長に「メゾン・ヴェルヌは今、管理する人がいなくてちょっと混乱している」と軽く愚痴をこぼしたばかりだった。
九条社長は「すぐに状況が変わる」と言っていた。
まさか、これだったとは!
こんなに広く責任者を選ぶのは、きっと自分が九条社長に助けてもらって裏口入社したなんて噂されないようにするためだろう。
柳小路の口元がほころび、心の中に甘い気持ちが広がった。九条社長は本当に自分に優しい!
周囲の人たちが興奮して話し合っているのを見渡し、柳小路は心の中でふっと鼻で笑った。どうせみんな夢を見ているだけ。本気で自分が選ばれると思ってるの?
どうせ人数合わせなのに、みんな大はしゃぎしていて、滑稽だった。
一方、高橋美咲はまだ作品の修復作業に追われていて、そんなことは何も知らなかった。
外の騒ぎを聞いて気になった森川茉莉が、何事かと様子を見に行った。まさかこんな大きな朗報があるとは思わず、すぐに高橋美咲のもとへ報告に戻った。
「高橋主任、メゾン・ヴェルヌで責任者を選ぶんですって!!」森川茉莉は満面の笑みで、「こんなチャンスは一生に一度ですよ。主任がリーダーになれば、もうあの人たちに怯える必要もなくなります」と興奮気味に続けた。
桜井奈緒が解雇された後、必ず新しい責任者が就任するだろうと彼女は思っていた。
上から直接誰かが送り込まれると思っていたが、まさか社内から選ぶとは。興奮しないはずがなかった。
高橋美咲は一瞬固まった。責任者を選ぶ?
私が立候補するの?
こんな一生に一度のチャンスを前に、高橋美咲は珍しく黙り込んだ。
森川茉莉の興奮も徐々に冷めていき、不思議そうに「どうしたんですか?リーダーになりたくないんですか?」と尋ねた。
高橋美咲は気持ちを整え、うっすらと微笑んだ。
「ううん、ちょっと考えたいだけ」
その言葉を聞いて森川茉莉は少し不思議そうだった。普通なら誰だって飛びつくようなチャンスなのに、高橋美咲は「考えたい」と言う。何を迷うことがあるのだろう。
高橋美咲はそれ以上何も言わず、黙々と修復作業に集中した。
だが作業の合間、どうしても以前の高橋グループでの出来事が頭をよぎった。あの時も入社してすぐにリーダー職に就いた。
だが間もなく、チーム全員の半年分の努力が水の泡になる事件が起きた。
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