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裏切った婚約者の叔父と、間違って結婚しました

Ch. 392 - 彼女は九条徹の女

Chapter 392

彼女は九条徹の女

森川茉莉の心配も無理はなかった。新作発表会で高橋美咲と柳小路は大きな衝突があったし、今や柳小路は完全に立場を逆転させている。高橋美咲を標的にするのは間違いない。

しかも森川茉莉は高橋美咲のアシスタント。自分も無関係ではいられないだろう。

二人とも、今ややや危うい立場に置かれていた。

もともとメゾン・ヴェルヌのマネージャーは桜井奈緒で、全てを取り仕切っていた。しかし、あの一件以来、桜井奈緒はもうメゾン・ヴェルヌにはいない。社員たちはまるで指揮官を失った兵士のようだった。

だから、自然と立場の高い人の言うことを聞くようになった。

数日前、高橋美咲が“クイーン”であることを明かし、メゾン・ヴェルヌ内で大きな存在感を示したが、柳小路は九条徹の彼女!今の柳小路の前では、高橋美咲も大したことはない。

森川茉莉は心配そうな顔をしていたが、高橋美咲は軽く微笑み、落ち着いた様子で「大丈夫。向こうが来るなら受けて立つだけ。何があってもちゃんと対応するから」と言った。

「でも……」

森川茉莉はまだ不安そうだったが、高橋美咲がそう言うのを見て、それ以上は何も言わなかった。

もしかしたら、高橋美咲には本当に何か策があるのかもしれない。

森川茉莉の不安はすぐに現実となった。デザイナーたちの図案を整理していた時、誰かがうっかりぶつかり、大きなカップのコーヒーがデザイン画の上にこぼれてしまった。

茶色い液体が紙に素早く染み込み、真っ白だった図案は一瞬で台無しになった。

「森川茉莉!」甲高い声が響いた。柳小路が森川茉莉を睨みつけ、容赦なく怒鳴りつける。「何やってるの?これ、私の最新デザイン画よ?こんなにして……もうこの仕事、続ける気ないの?」

近くにいたメゾン・ヴェルヌのスタッフたちが集まり、森川茉莉を責める柳小路に加勢した。

「うそでしょ、下書きが本当に台無しになっちゃった。森川茉莉、もうこの仕事やる気ないの?デザインの下書き一枚にどれだけデザイナーが苦労してるかわかってる?」

「そうだよ。まさか高橋美咲が後ろ盾だからって、わざとやったんじゃないでしょうね?」

森川茉莉の顔は真っ青になり、頭の中は完全に混乱していた。

彼女はただ謝ることしかできなかった。「ごめんなさい、わざとじゃないんです。さっき急にぶつかってきて、それでぶつかっちゃって……柳小路さん、本当にごめんなさい。私が不注意でした。」

台無しになった下書きは柳小路のものだった。彼女は眉をひそめ、怒りを隠しきれないまま森川茉莉を苛立たしげに見つめた。

「不注意で私の下書きをダメにしたんだから、もしわざとだったら世界でもひっくり返すつもり? 」柳小路は敵意をあらわにして森川茉莉を睨みつけ、鼻で笑った。「自分で人事に退職届を出しなさい。」

森川茉莉の目に涙が浮かんだ。たった一度の小さなミスで九条インターナショナルを辞めることになるなんて、思ってもみなかった。

彼女の家の事情はあまり良くなかった。苦労して耐え抜いたからこそ九条インターナショナルに入れたのに、ここは東京でもトップクラスの会社。他の会社じゃこんな高給はもらえない。

これまではずっと高橋美咲のことを心配して、自分も仕事を失うんじゃないかと怯えていた。

考えれば考えるほど悲しくなり、森川茉莉の涙は止まらなかった。その姿はとても哀れで、周囲のスタッフの中には同情する者もいたが、誰も柳小路を刺激する勇気はなかった。

なにしろ、今日になって彼女が社長夫人だと明かされたばかり。森川茉莉の味方なんてできるはずがない。

一方、取り巻きの腰巾着たちは、ますます柳小路に媚びて手を貸した。

「何泣いてるの!」加藤千尋が前に出て、森川茉莉の肩を乱暴に押しながら、全く遠慮なく言い放った。「柳小路さんがいじめてるみたいにしないでよ。悪いのはあんたでしょ!」