Chapter 390
拒絶
彼は高橋美咲に怒っているわけではなかった。自分が彼女に悪い印象を与えてしまい、今こうして近づくことすら彼女に拒絶されてしまうことに腹を立てていた。
今の彼女は完全に心を閉ざし、これ以上自分を受け入れようとせず、距離を置こうとしている。
九条蓮は深く息を吸い、高橋美咲の服を直してやった。
「謝る必要なんてないよ。」
悪いのは自分だ。高橋美咲にもっと良い思いをさせてやれなかったし、心に傷まで残してしまった。今の状況は自業自得だ。
九条蓮が責めることなく接してくれるのを見て、高橋美咲はますます罪悪感に苛まれた。
いっそ全てを打ち明けてしまいたい衝動に駆られた。自分が何をしたのか、九条蓮に全部話してしまいたかった。
でも、もし話したら、本当に二人は終わってしまうかもしれない。
たとえ終わらなくても、心の中に棘が残り、時折それに触れては血を流すような関係になってしまう。
そんな苦しみは味わいたくない。考えただけで息が詰まりそうだった。
話すべきか……
絶対に話しちゃダメ!
二つの感情が高橋美咲の中でぐるぐると回り、気が狂いそうだった。
高橋美咲があまりにも落ち込んで、今にも泣き出しそうな様子を見て、しかも完全に自分を拒絶したわけではないと気づいた九条蓮の失望と沈んだ気持ちは少し和らいだ。彼は優しく「大丈夫だよ。焦らなくていい。ゆっくり進めばいい」と慰めた。
「九条蓮……」
高橋美咲はまた謝ろうとしたが、今の九条蓮にそれは必要ないと分かっていた。
唇を開きかけたが、結局何も言えなかった。
九条蓮は手を伸ばして彼女の髪をくしゃっと撫でた。「あまり考えすぎないで。ゆっくり休んで。」
そう言って立ち上がり、バスルームへ向かった。きっと冷たいシャワーを浴びるつもりなのだろう。
高橋美咲はきっちり閉まったバスルームのドアを見つめ、重いため息をついた。
はあ……全部自分のせいだ。九条家軽井沢別邸のオーナーが誰なのか分かれば、きっと自分の恐怖や劣等感も乗り越えて、九条蓮に心を開けるようになるかもしれない。
九条蓮は冷たいシャワーを二度も浴びたが、それでも体の火照りは収まらなかった。
バスルームから出てくると、高橋美咲の呼吸は落ち着き、すでに眠っていた。
この小悪党め。苦しんでいるのは自分だけか。
九条蓮はベッドに横になった。高橋美咲は寝返りを打って彼の方を向き、彼は目の前の可愛らしい顔をじっと見つめた。
心の奥が少し揺れ、そっと彼女の唇にキスをした。
高橋美咲の眉がわずかに寄り、呼吸がだんだん荒くなってきたところで、九条蓮は彼女を離した。
解放されると、高橋美咲は彼の腕の中にどんどんもぐり込んできて、まるで彼の温もりを心から求めているかのようだった。心地よい体勢を見つけると、再び深い眠りに落ちた。
九条蓮はどうしようもなくため息をついた。
さっきはあんなに強く拒絶していたのに、今はこんなにも自分に甘えている。
つまり、高橋美咲は自分を拒絶しているのではなく、前回自分があまり良い経験をさせてやれなかったせいで、心にトラウマができて本能的に抵抗してしまうのだろうか。
結局、彼は二人に毛布をかけ、高橋美咲の柔らかく華奢な体を抱きしめながら眠りについた。
新しい朝がまた始まった。
高橋美咲が朝起きてベッドの横を見ると、九条蓮の姿はもうなかった。昨夜のことを怒っているのかと思った。
でも、洗面を済ませて着替え、部屋を出ると、ダイニングテーブルに座っている彼の姿があった。
「起きた?朝ごはん食べよう。」
まるで何事もなかったかのように、いつも通りの九条蓮だった。
その瞬間、高橋美咲の彼への気持ちはこれまでにないほど高まった。自分を拒絶したことに怒るどころか、冷たくもされなかった。
思い出したのは、以前九条悠真と付き合っていた頃、彼にそういうことを求められた時のことだった。
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