Chapter 381
誰にも私の人生は決められない
その瞬間、高橋美咲の心臓は喉元まで跳ね上がった。「あなた……何を話したいの?」
九条蓮はごく自然に言った。「相沢翔の一戸建てには警備がいない。君には危険だ。明日、僕が一緒に行って、君の荷物を代官山パークレジデンスに戻そうか?」
九条悠真が高橋美咲につきまとっていたものの、九条蓮はそのおかげで自分にチャンスが巡ってきたことに感謝していた。これを機に高橋美咲を自分の元に戻せるかもしれないからだ。
高橋美咲は一瞬固まった。さっきまでは九条蓮が佐伯葉月のことを話したいのかと思っていたが、実際は自分にまた一緒に住もうと言いたかったのだと気づき、意外だった。
以前は色々な誤解があって離婚寸前だったから、家を出るのも当然だった。
でも今は……やっぱり一緒に住むべきなのかもしれない。
実際のところ、九条悠真の嫌がらせが怖いわけでも、九条蓮と暮らしたくないわけでもなかった。ただ、九条蓮との関係にはまだ心の傷が残っていた。
特に佐伯葉月が現れてからは、その不安がさらに強くなっていた。
高橋美咲の顔に迷いが浮かんでいるのを見て、九条蓮は眉をひそめた。彼女の小さな顔をじっと見つめ、なぜためらっているのか分からなかった。
夫婦なのだから、一緒に住むのは当然ではないのか?
もしかして、前回のことがまだ尾を引いているのか?
自分の未熟さが高橋美咲に心の傷を与えてしまったのだろうか?
九条蓮はプライドを傷つけられた気がした。まさかこんなことで高橋美咲に避けられる日が来るとは思ってもみなかった。
しばらく沈黙した後、かすれた声で言った。「美咲、僕たちは夫婦だ。せめて、始めてみよう。」
九条蓮のどうしようもない声色を聞いて、高橋美咲は自分が少し意地を張りすぎていたと感じた。九条蓮が好きで一緒にいたいのなら、自分の心の壁を乗り越えるべきだ。
確かに二人の間には多くの問題がある。でも、勇気を出して一歩踏み出さなければ、ずっとこのままなのだ。
高橋美咲はうなずいて言った。「分かった。じゃあ、明日荷物を取りに行こう。」
高橋美咲の返事を聞いて、九条蓮の唇がわずかにほころび、その端正な顔立ちが一層魅力的に見えた。
「それと、もう一つ聞きたいことがあるの。」高橋美咲はまだ少し不安げだった。
九条蓮は片眉を上げ、続きを促した。
高橋美咲は言った。「あなたのおばさん、あなたのことを勝手に決めたりしない?」
九条蓮は佐伯葉月と特別親しいわけではないが、それでも高橋美咲は少し心配だった。もしまたおばさんが強引に介入してきたらどうしよう、と。
「僕のことは誰にも決めさせない。」
九条蓮は立ち上がり、高橋美咲の元へと歩み寄った。そして半身をかがめて高橋美咲を抱きしめ、低い声でささやいた。「また彼女が来て困ったら、僕に連絡して。もう釘は刺してある。」
その言葉を聞いて、高橋美咲の心は温かくなった。
九条蓮は本当に十分すぎるほどの安心感を与えてくれる。もう何も心配することはないのかもしれない。
……
翌朝早く、九条蓮は高橋美咲を連れて相沢翔の一戸建てへ荷物をまとめに行った。出て行くときはスーツケース一つだけで、他には何も持っていなかったので、とても簡単だった。
ほとんど手間もかからず、すぐに荷造りは終わった。
九条蓮はスーツケースを持ち、もう片方の手で高橋美咲の手を取り、「行こう。帰ろう。」と言った。
「帰ろう」という言葉を聞いて、高橋美咲は思わず微笑んだ。
両親の関係もあって、高橋美咲はずっと自分の家庭を持つことに憧れていた。
心の中にふっとやる気が湧いてきた。代官山パークレジデンスは仮住まいにすぎないけれど、いつかきっと二人だけの小さな家を持てるはずだ。
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