Chapter 378
あなたの上司の名字は九条ですか?(続き)
九条凛によれば、佐伯家は東京でも有数の名家で、佐伯葉月はその長女として有名な社交界のお嬢様だという。父親の佐伯大輔は九条インターナショナルと非常に親しい関係にある……
それを聞いたとき、高橋美咲は普通なら佐伯お嬢様と九条家は政略結婚の話があってもおかしくないと思った。
だが前回は、九条社長が柳小路でデートしているのを見かけたので、実際のところどうなっているのかは分からなかった。
「こんなところでお会いするなんて偶然ですね。よかったらコーヒーでもご一緒しませんか?」佐伯葉月の視線は高橋美咲に注がれ、何か含みのある表情だった。
高橋美咲もちょうど予定がなかったので、「いいですよ」と頷いた。
二人は別邸内のカフェで向かい合って座った。
高橋美咲は目の前の佐伯葉月を見つめた。高級ブランドに身を包み、艶やかな髪が背中に流れている。スラリとした体型に整った顔立ち、全身から育ちの良さがにじみ出ていた。
自分もかつてはこうだったのだろうか、とふと思う。
昔、高橋正人に好かれたくて、一時は無理をしてでも完璧なお嬢様像を演じていた。今の佐伯葉月のように、頭の先からつま先まで隙のない姿で。
高橋美咲が佐伯葉月を観察している間、佐伯葉月も同じように高橋美咲を値踏みしていた。
前回九条悠真の婚約が発表されたとき、佐伯葉月はまだ海外にいて、婚約披露宴には出席していなかった。そのため、九条蓮が九条悠真のふりをして高橋美咲と出席したことも知らなかった。
昨日の新作発表会で、高橋美咲と九条蓮がただならぬ関係だと知り、わざわざ高橋美咲の素性や過去を調べたのだった。
高橋美咲が九条悠真とあんな関係だったのに、九条蓮はそれを知っていても気にしない。正直、高橋美咲は生まれつき美しい顔立ちをしている。だからこそ、九条蓮の心を射止めたのだろう。
周囲の反対や嘲笑をものともせず、九条蓮は高橋美咲を選んだ。
それでも、高橋美咲は身分のせいで九条家の大旦那様に見下されている。
そう思うと、佐伯葉月は小さく鼻で笑った。目には軽蔑の色が浮かび、態度もさらに傲慢になった。
高橋美咲と比べれば、自分の方が遥かに格上だ。身分だけでも、高橋美咲など足元にも及ばない。
幸い、高橋美咲の唯一の取り柄はQueenという肩書きだけ。社交界ではそんなもの、まったく意味をなさない。
佐伯葉月の唇に薄い微笑みが浮かぶが、感情は一切見せなかった。
彼女は高橋美咲を見つめ、「高橋さん、実は私、東京に戻ってきたばかりで知り合いも少なくて。前回は人が多すぎて、あまりお話できませんでした」と言った。
高橋美咲は目の前の佐伯葉月を見つめた。笑顔を浮かべてはいるが、どこか仮面をかぶっているようで、本気で親しくなりたいとは思っていないように感じた。
記憶が正しければ、前回の集まりでも佐伯葉月の関心は九条凛に向いていて、自分にはほとんど興味を示していなかった。
佐伯葉月が社交辞令で話しかけているだけなら、高橋美咲も特に愛想よく返すことはしなかった。
すると突然、佐伯葉月が話題を変え、微笑みながら言った。「高橋さん、九条蓮さんとどういうご関係かは存じませんが、これからは彼と距離を置いていただきたいんです」
佐伯葉月は微笑んでいたが、その声色にははっきりとした警告が込められていた。
高橋美咲の目がわずかに陰る。佐伯葉月が自分の正体を発表会で知った後、顧客候補として親しく話すためにカフェに誘ったのだと思っていた。
まさかこんな話をされるとは思わず、高橋美咲は佐伯葉月への認識を改めざるを得なかった。
佐伯葉月は、九条蓮に近づくなと警告しているのか?
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