Chapter 377
あなたの上司の名字は九条ですか?
九条蓮もそのことを知っていたから、今朝は彼女を起こさなかったのだろう。
高橋美咲がスマートフォンを手に取ると、ようやくメッセージが届いているのに気づいた。送り主は九条蓮。「朝食はテーブルに置いてある」と書かれていた。
まさかこの人が、出勤前にわざわざ朝食まで用意してくれるとは思わなかった。
高橋美咲の唇がわずかにほころぶ。身支度を整え、着替えを済ませる。
朝食を食べ終えると、高橋美咲は外出した。
昨夜九条蓮と一緒にいた気まずさがまだ鮮明に残っている。軽井沢別邸で何があったのか、早く調べなければならない。少なくとも、自分が誰と一線を越えたのか知っておきたい。そうすれば、たとえ九条蓮と腹を割って話すことになっても、何も知らないままではいられない。
高橋美咲はタクシーで九条家軽井沢別邸へ向かった。
前回と同じく、ここには名の知れた人々が多く出入りしており、客層も非常に入り混じっていた。高橋美咲は別邸のマネージャーを見つけ、オーナーに会いたいと伝えた。
前回来たときは、責任者には会えず、ゲスト対応のスタッフとしか話せなかった。そのスタッフも何も知らず、高橋美咲は手がかりを得られないまま帰るしかなかった。
その後、彼女はネットで別邸の株主を調べてみたが、何の情報も出てこなかった。ここまで徹底的に情報を消せる人物は、並大抵の人間ではない。
九条家軽井沢別邸のオーナーは、ますます謎めいていた。
幸い、今回はマネージャーに会うことができた。
高橋美咲の要望を聞いた九条家軽井沢別邸のマネージャーは、困ったような表情を浮かべた。
そして丁寧に言った。「申し訳ありませんが、うちのオーナーは普段ここにはいません。たまにしか来ませんし、アポイントなしで見知らぬ方とお会いすることはありません」
高橋美咲はきつく眉をひそめ、さらに続けた。「じゃあ、オーナーは誰なんですか?」
「オーナーの身元はお伝えできません」
九条家軽井沢別邸のマネージャーは一切隙のない口調で、何も明かさなかった。高橋美咲は何一つ有益な情報を得られず、少し苛立ちを覚えた。
すべてが謎のままだった。
分かっているのは、自分がこの別邸のオーナーに純潔を奪われたということだけ。オーナーが誰なのか、名前すら一つも分からない。
高橋美咲の目が一瞬揺れ、ふいに尋ねた。「オーナーの名字は九条ですか?」
九条家軽井沢別邸のマネージャーは一瞬固まった。高橋美咲がすでにオーナーの正体を知っているのに、なぜわざわざ聞きに来たのかと驚いたようだった。
だが、その驚きはほんの一瞬で、すぐに元の表情に戻った。
高橋美咲がよく見ると、もう先ほどと同じ顔つきになっていた。「申し訳ありませんが、オーナーについては何もお答えできません。本当に申し訳ありません」
さっきの一瞬の動揺を高橋美咲は確かに見逃さなかった。もしかして、彼女の推測は当たっているのか?
九条家軽井沢別邸のオーナーが、あの九条悠真だったりするのだろうか?
犬に噛まれたようなものだと思うと、高橋美咲は吐き気とやるせなさで胸が詰まった。大きくため息をつき、「ありがとうございました」とだけ言った。
そうして、彼女は踵を返してその場を離れた。
出口に差しかかったとき、突然女性の声が耳元で響いた。「高橋美咲さん?」
その声に我に返り、声のした方を見上げると、見覚えのある人物が立っていた。
目の前の女性は佐伯葉月だった。前回、森川佳鈴に誘われて参加した集まりの主催者だ。
スタイリングスタジオで、九条凛が佐伯葉月のことを話していたのを高橋美咲は聞いたことがあり、多少印象に残っていた。
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