Chapter 376
高橋美咲は彼を拒絶している
だが、九条蓮の車はすでに静かに停まっていた。エンジンを切ると、彼は車を降り、高橋美咲の側のドアを開けた。「降りて。」
はあ……もうこうするしかない。
そう思いながら、高橋美咲は車を降りて、九条蓮の後について代官山パークレジデンスへ戻った。
ドアが開くと、懐かしい光景が一気に押し寄せてくる。
ここは、高橋美咲と九条蓮が出て行ったときとまったく同じままだった。何一つ変わっていないように見える。
自分が置きっぱなしにしていた水筒さえ、そのままの場所にあった。高橋美咲は、もしかして自分が出て行ったあと、九条蓮は一度もここに戻っていなかったのでは、と考えてしまう。
でも、もしここにいなかったとしたら、彼はどこにいたのだろう?
高橋美咲がぼんやりしていると、九条蓮はすでに救急箱を見つけていた。手招きして「こっちに来て」と言う。
高橋美咲は仕方なく近づき、ソファに腰を下ろした。
次に、九条蓮が彼女の傷の手当てを始めた。ほんの小さな擦り傷なのに、彼は驚くほど真剣な表情で処置していく。
高橋美咲はおとなしく彼の前に座り、されるがままにしていた。消毒が終わると、絆創膏を貼ってくれた。
九条蓮が立ち上がって救急箱を片付けるのを見ながら、高橋美咲は何か言いたげに口を開きかけて、ためらった。「あの……九条蓮……」
「寝ろ。」
高橋美咲は少し驚いて九条蓮を見つめた。寝る?ここで?
どうやら、その通りらしい。
しばらくして、高橋美咲は落ち着かないままベッドに横になった。こんなふうに一緒に寝るのは、久しぶりだった。自然と九条家軽井沢別邸での出来事が思い出される。
高橋美咲は緊張して布団を握りしめ、バスルームの方をちらりと見た。九条蓮はシャワーを浴びている。
もういいや!
彼が出てくる前に早く寝てしまおう。
そう思い、高橋美咲は布団を頭までしっかりかぶり、ぎゅっと目を閉じた。
バスルームのドアが開き、九条蓮がシャワーの余韻をまとったまま出てきた。黒いシルクのゆったりしたパジャマ姿で、清潔感があり、ベッドの高橋美咲に視線を向ける。
高橋美咲は背中を向けて寝ているふりをしていたが、その緊張した背中から、眠っていないことは明らかだった。九条蓮には、高橋美咲が自分を拒絶しているのがわかった。
なぜだ?
もしかして、前回の自分の態度に不満があったのだろうか。
九条蓮は鋭い眉をひそめ、少し落ち込んだ。同時に、あの時は自分のことばかり考えて、高橋美咲の気持ちを考えていなかったのでは、と反省する。
深く息をつき、九条蓮は高橋美咲の隣に横になった。
だが、高橋美咲の甘い香りが時折ふわりと漂い、九条蓮の喉は渇き、体が熱くなっていく。男というものは、一度快楽を知ってしまうと、なかなか元には戻れないものだ。
九条蓮は大きく息を吐き、再びバスルームへ戻って冷たいシャワーを浴びた。
翌日、重いカーテンの隙間から朝日が部屋に差し込んでいた。
高橋美咲はベッドの中で寝返りを打ち、目を開けた。しばらくぼんやりした後、昨夜の出来事が一気に頭に蘇る。
昨夜は九条悠真と桜井奈緒が彼女の家に押しかけて大騒ぎになった。ちょうどその時、九条蓮が現れ、彼と一緒に代官山パークレジデンスへ戻ったのだった。
その後、二人は一緒に夜を過ごした……
隣にいたはずの人はもういなかった。九条蓮は彼女が目覚める前に仕事へ出かけたのだろう。
昨日はメゾン・ヴェルヌの新作発表会だった。会社では事前に、発表会後はこれまで忙しかったメゾン・ヴェルヌの社員全員に三日間の休暇を与えると決まっていた。
だから今日は、高橋美咲は九条インターナショナルに出社する必要がなかった。
You might also like




