Chapter 371
いっそ高橋美咲と結婚したら
何よりも、悠真は高橋家という後ろ盾を失った。これからはまた九条蓮の下で働き、顔色をうかがう日々に逆戻りだろう。
東京に来て九条蓮を頼れば、何かしら得をすると思っていた。
だが九条蓮は一度も便宜を図ってくれなかった。
何かを思い出したのか、沙耶香の表情が少し和らいだ。「桜井奈緒は高橋家の娘じゃないんだから、メゾン・ヴェルヌも辞めさせられるはずよ。そうなれば、悠真がメゾン・ヴェルヌを完全に仕切れるんじゃない?」
あの時、悠真が桜井奈緒に新しいプロジェクトを取らせたのも、彼女に足を引っ張られたくなかったからだ。
だが、結果的にその目的は達成されたのではないか。
そう思うと、沙耶香の気分は一気に晴れやかになった。
だが、悠真はまったく喜んでいなかった。顔を曇らせ、「九条蓮はそんなに甘い人間じゃない。今回の件で九条インターナショナルの顔にも泥を塗ったし、もう俺を置いてくれないかもしれない」と言った。
悠真は九条蓮のことをある程度理解していた。
「じゃあ、これからどうするの?」沙耶香は焦り、「高橋正人に頼んでみたら?私たちだって被害者よ。桜井奈緒に騙されたんだから、特別に取り計らってもらえないかお願いしてみて」と言った。
今は悠真のキャリアを守ることが最優先。沙耶香はプライドを捨ててでも、高橋正人に頭を下げる覚悟だった。
「高橋正人に電話する!」
悠真はそう言うと、携帯を取り出し、高橋正人の番号を押した。
その時、高橋正人はちょうど大阪に到着し、飛行機を降りたところで九条悠真から電話を受けた。
九条悠真と高橋美咲はもう何の関係もなかったが、高橋正人は礼儀として電話に出た。するとすぐに、九条悠真は低姿勢で懇願し始め、自分の仕事を守るために助けてほしいと頼んできた。
話を聞き終えた高橋正人の表情は一気に曇った。
高橋美咲の相手が九条悠真でなくて本当に良かったと、心から安堵した。こんなにも意気地のない男は、高橋美咲にはふさわしくない!
「九条悠真、どう考えても君を助けるつもりはない。これまで手を貸したのは、君が美咲の相手だと思っていたからだ。」
「美咲?」九条悠真は困惑して聞き返した。
彼には高橋美咲が何の関係があるのか分からなかった。
しばらくして、九条悠真の頭の中で切れていた糸がようやく繋がった。突然、恐ろしい仮説が浮かび、震える声で「高橋さんの娘が高橋美咲なんですか?」と尋ねた。
答えを聞いた九条悠真は、その場でソファに崩れ落ちた。
九条悠真が青ざめた顔で電話を切るのを見て、九条沙耶香はすぐに「悠真、今なんて言ってたの?高橋美咲が高橋正人の娘?冗談でしょ!」と問い詰めた。
九条沙耶香はさっきの九条悠真の驚いた声を聞いていた。
だが心の奥では、どうしても信じたくなかった。もし高橋美咲が高橋家の長女なら、悠真が桜井奈緒のために彼女を捨てたのは、まるでスイカを捨ててゴマを拾うようなものだ。
どうしても九条沙耶香はその事実を受け入れられなかった。
ただでさえ気分が悪かったのに、これを知ってますます悔しさで気分が悪くなった。
九条悠真はソファに座ったまま、呆然として一言も発せなかった。
黙ったままの息子に、九条沙耶香は「悠真、何か言いなさいよ。黙ってたら余計に不安になるじゃない。本当に高橋美咲が高橋家の娘なの?」と急かした。
九条悠真はようやく我に返り、九条沙耶香を見上げて「母さん、高橋正人が今、高橋美咲は高橋家の長女だって言ったんだ」と答えた。
それを思い出すだけで、九条悠真の胸は苦しくなった。
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