Chapter 368
彼をいじめないで
九条蓮はいじめられるような男には見えない。自分が彼をいじめられるのか?
美咲は九条蓮のことを全然分かっていない!
だが、それ以上に腹立たしかったのは、美咲が自分の父親である自分に、他人のためにこんな言い方をしたことだった。
完全に他人の味方をしている!
美咲は高橋正人の心中など知る由もなく、念押ししてからようやく安心してその場を離れ、高橋正人と九条蓮だけを残した。
美咲が去ると、九条蓮の表情は一変した。さっきまでの温かさは消え、冷たい無表情に変わった。
高橋正人はしばらく黙ってから、「美咲と付き合うなら、これからは彼女を大切にしてほしい」と口を開いた。
目の前の男は一世代も若いのに、底知れない雰囲気をまとっていた。だが、さっきの出来事を見て、高橋正人は九条悠真よりはるかにましだと感じていた。
それでも父親として、少しは釘を刺しておきたかった。
九条蓮は口元をゆるめ、軽く「ご心配なく、高橋さん。あなたが守れなかったものは僕が守ります。あなたが愛せなかったものは僕が愛します」と言った。
そう言い残し、長い脚でその場を去っていった。
九条蓮の後ろ姿を見送りながら、高橋正人は唇を引き結んだ。この若者、本当に生意気だ!
美咲は車の中で九条蓮を待っていた。スマホには次々とニュース速報が届く。どれも今日の新商品発表会の話題ばかりだった。
桜井奈緒が高橋家の偽の娘だったこと、美咲がQueenであることが同時に暴露され、その落差は大きく、どれも衝撃的な内容だった。
さらに桜井奈緒は九条悠真に突き飛ばされて病院に運ばれ、多くの記者がそのまま病院まで追いかけて取材を続けていた。
ネットニュースは東京中を席巻し、あふれかえっていた。
人が転落すると、周囲の悪意が一気に押し寄せる。いつの間にか、桜井奈緒が九条悠真を美咲から奪ったという事実まで、ゴシップ系アカウントによって暴露されていた。
今や美咲は被害者として、自然と多くの支持を集めていた。
コメント欄は桜井奈緒への罵倒で埋め尽くされ、目を覆いたくなるほどだった。
美咲は、どうして桜井奈緒が九条インターナショナルに入れたのか、ずっと不思議だったが、今なら分かる気がした。
結局、すべては高橋家の娘という立場を利用していたのだ。
美咲は冷笑した。桜井奈緒は自分を盾にして大掛かりな芝居を打ったつもりだったのだろうが、結局は自分の正体を暴かれる羽目になった。鶏を盗もうとして餌の米まで失ったようなものだ。
九条悠真はもともと善い男ではなかった。彼が桜井奈緒と結婚したのも、彼女の「お嬢様」ブランド目当てだったのではないか。
では今、彼はまだ桜井奈緒と結婚するつもりなのだろうか。
美咲はもう心の中で、ぼんやりと答えを出していた。
でも、自分と九条悠真はもう何の関係もない。彼らのことなど、もう自分には関係ない。これからは、ただの通りすがりになるだけだ。
高橋正人のことを思い浮かべた瞬間、高橋美咲の気持ちは一気に沈んだ。
彼が九条蓮に何を話したかったのか、美咲には全く見当がつかなかった。九条蓮なら、きっと困らされることはないだろうけど……。
そんなことを考えていると、突然車のドアが開いた。九条蓮がもう戻ってきていた。
九条蓮は車のドアを開けて運転席に乗り込んだ。
「あなたと……お父さん、もう話は終わったの?何か言われた?嫌なこと言われなかった?」と、美咲はすぐに九条蓮を心配して尋ねた。
「嫌なことは言われなかったよ。ただ、美咲のことをしっかり頼むって言われただけだ」と九条蓮は答えた。
その言葉を聞いて、高橋美咲はしばらく黙り込んだ。
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