Chapter 367
最初から最後まで騙されていた(続き)
やがて桜井奈緒は床に丸くなり、そのまま気を失ったように見えた。
結局、陽々が人を呼んで桜井奈緒を運び出させた。
会場の空気は異様だった。こんな騒動の後では、他の招待客たちも居心地が悪くなっていた。
ついさっきまで得意満面だった九条悠真は、今や負け犬のようにうなだれ、九条沙耶香も呆然と何かを呟いている。二人とも大きなショックを受けた様子だった。
見物を楽しんでいた人も多かったが、ここまで事態が悪化しては、もう長居は無用だった。記者会見も終わっていたため、次々と帰り支度を始める人が増えた。
それを見て、九条蓮は高橋美咲の手を取り、そっと「行こう」と声をかけた。
高橋美咲は何も言わず、彼に導かれるまま会場を後にした。
少し離れた場所で、佐伯葉月は九条蓮と高橋美咲が一緒に去るのを見て、目を伏せた。
佐伯大輔が彼女の肩に手を置き、真剣な口調で「葉月、僕たちも帰ろう。君のことはまた後で話そう」と言った。
その言葉に、佐伯葉月はようやく冷たい視線を抑え、佐伯大輔と共に会場を後にした。
九条蓮は高橋美咲の手を取り、駐車場へと向かった。
高橋美咲は黙ったまま歩き、さっきの出来事を何度も頭の中で繰り返していた。
すべてがあまりにも急に起こった。まだ整理がつかず、何を言えばいいのかも分からなかった。
九条蓮が現れた瞬間から、彼はまるで全てを掌握しているかのような落ち着きと余裕を漂わせていた。まるで上の立場から状況をコントロールしている人のようで、すべてが彼の計画通りに進んでいるようだった。
本当は九条蓮に聞きたいことがたくさんあった。桜井奈緒のこと——いつ彼女が自分の身分を盗んだと知ったのか?どうしてこんなに完璧なタイミングで現れたのか……。
その時、背後から足音が聞こえた。
「美咲。待て!」
高橋正人の声が聞こえた瞬間、高橋美咲の体は本能的に緊張した。まだ高橋正人と素直に向き合うことができなかった。
高橋正人が二人の方へ歩み寄ってきた。
彼は九条蓮に一瞥を送り、九条蓮も無表情でその視線を受け止めた。二人の視線がぶつかり、無言の火花が散る。互いに相手を値踏みしているようだった。
高橋正人は「こっちに来なさい」と言った。
それは命令口調で、どこか厳しさがにじんでいた。高橋美咲は思わず眉をひそめた。
まるで高橋正人が自分と九条蓮の関係を知って、今度は九条蓮と二人きりで話したいと言っているようだった。高橋正人が九条蓮の身分を見下すのではないかと心配だった。
そもそも自分と高橋正人の間には、もうほとんど関係がない。なのに、なぜ彼が自分のことに口を出す権利があるのだろう。
美咲もまた、九条蓮を守りたい気持ちがあった。自分のせいで九条蓮が差別を受けるのは嫌だった。九条沙耶香や九条蓮の成金の叔母のことを思い出せば、みんな家柄に対して強い偏見を持っているのは明らかだった。
美咲が口を開こうとしたその時、九条蓮が手を伸ばして優しく彼女の頭を撫で、「心配しないで。車で待ってて」と穏やかに言った。
「でも……」
九条蓮の視線は揺るぎなく、少しの怯えも見せなかった。
美咲は少し考えてから、ついにうなずいた。そして九条蓮の耳元に顔を寄せて小声で「もし何か言われたら、すぐに連絡して。私が助けに行くから」とささやいた。
その言葉に、九条蓮は思わず口元をほころばせた。
まさか自分が守られる側になる日が来るとは思ってもみなかった。
「分かった」と彼はうなずいた。
美咲は高橋正人をちらりと見て、「彼をいじめたら許さないから」と言い放った。
高橋正人「……」
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