Chapter 352
これ以上は演じきれない
高橋正人はうなずいた。婿としては、当然、義父を手厚くもてなさなければならない。九条悠真は高橋正人を席まで案内して座らせ、自分もその隣へ腰を下ろそうとした。すると桜井奈緒が先に空いた席へ座った。
「悠真、あなたはそっちに座って」
九条悠真は、桜井奈緒と高橋正人が長く会っておらず、隣同士で近況を語り合いたいのだろうと思ったため、深く考えなかった。気遣うように笑って言った。「分かった。じゃあ、僕は向こうに座るよ」
高橋美咲はその場に立ち、この奇妙な光景を目を細めて眺めていた。
一瞬、何と言えばいいのかさえ分からなかった!
高橋正人に地位と人脈があることは知っている。とはいえ、九条悠真は少し熱心すぎないだろうか。事情を知らない人が見たら、高橋正人を義父のように扱っていると思うだろう。
ぺっ、ぺっ、ぺっ……何を馬鹿なこと考えてるの?
今の自分と九条悠真には、もう何の関係もない!
ランウェイショーが始まろうとしており、高橋美咲にはそれ以上考えている暇がなかった。舞台裏へ行き、ショーの段取りを整えるのを手伝わなければならない。皆が長い時間をかけて準備してきたのだ。この新作発表会は極めて重要だった!
九条蓮がまだ脇に立っているのを見て、高橋美咲は言った。「九条蓮、先に空いてる席を探して座ってて。私は舞台裏を手伝ってくる。あとで迎えに来るね」
そう言うと、高橋美咲は奥の控室へ向かった。
九条蓮の口元がほんのわずかに上がった。適当に空いている席を探せ?
すると彼は高橋正人と九条悠真の方へ歩き出し、何も言わず、そのまま二人の隣へ腰を下ろした。
九条悠真は、この男がハエ取り紙のように恥知らずにも自分たちへまとわりつくのを見て、顔を曇らせた。
だがショーが始まろうとしている今、騒ぎを起こして追い出すわけにもいかなかった。
そのため胸の不快感を押し殺し、ひとまず耐えるしかなかった。
奥の控室では――
モデルたち全員に、ランウェイがすぐ始まるという知らせが届いた。
森川茉莉は驚きの表情を浮かべ、声を上げた。「まあ、どうしてもう始まるんですか?まだ準備できていないモデルが何人もいますよ」
だが外ではすでに音楽が流れ始め、もう時間は残されていなかった。
そこで準備ができているモデルから先に送り出し、残った者たちは一分一秒を争って支度を終えた。幸い、最後の瞬間にはショーに間に合った。
メゾン・ヴェルヌの新作ジュエリー発表ショーが終わると、会場に温かな拍手が鳴り響いた。
高橋美咲は舞台裏から見つめ、一瞬ぼんやりとした表情になった。
かつて初めて開くはずだった彼女のジュエリーデザインショーは、開催前に潰され、日の目を見ることさえなかった。今回のショーに並んだ作品の大半は自分のデザインではない。それでも、当時の夢がかなったような気がした。
この瞬間、九条蓮の誘いを受け、会社へ入ると決めたことは本当に正しかったのだと、心の底から感じた。
ショーが終わった後も、多くの人が会場に残り、互いに話をしていた。
今日は表向きこそメゾン・ヴェルヌの新作発表会だが、実際には著名な招待客も大勢訪れていた。人脈を広げる絶好の機会でもあり、誰もこの好機を逃そうとはしなかった。
高橋グループの社長である高橋正人のもとにも、大勢が挨拶に訪れた。
九条悠真は高橋正人のそばに付き従い、自分まで注目の的になったような気分で、得意満面だった。
以前なら、こんな機会は自分にはまったく縁がなかった。九条家の大旦那様のそばに立ち、経済界の大物へ紹介してもらえる資格があったのは、九条蓮だけだった。
だがこれからは、自分がもっと高い場所に立ち、さらに遠くへ進み、九条蓮さえ踏みつけるのだ!
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