Chapter 334
許可証付きの恋愛
離れの外で、車がゆっくりと停まった。
高橋美咲の胸が少し沈み、「じゃあ、先に戻るね」と言った。
シートベルトを外し、降りようとしたその時、不意に手首を掴まれた。その感触に高橋美咲の全身がびくりと跳ねた。
九条家軽井沢別邸での一件以来、他人に触れられることに極端な嫌悪感を覚えるようになっていたが、目の前の男は九条蓮だった。
九条蓮が高橋美咲に身を寄せ、彼の影がすぐに彼女を包み込んだ。
近づくと、彼の清潔な香りがふわりと漂い、それだけで高橋美咲は安心感と安らぎを覚え、張り詰めていた体がふっと緩んだ。
高橋美咲が力を抜いた瞬間、九条蓮のキスがそっと頬に落ちた。優しく、余韻を残すキスだった。彼は無理をせず、絶妙なタイミングで身を引いた。
九条蓮は高橋美咲の耳たぶが赤く染まり、その赤みが頬まで広がっていくのを見た。それは、あの日彼女が自分の下で見せた表情と同じで、もっと近づきたくなる衝動に駆られた。
だが、さっきまでの彼女の抵抗や硬さは明らかだった。だからこそ、焦らず一歩ずつ進めなければならない。怖がらせて嫌われるわけにはいかない。
九条蓮は姿勢を正し、そっと高橋美咲の頭を撫でて「もう帰っていいよ」と優しく声をかけた。
車を降りても、高橋美咲はまだぼんやりしていた。
その間に九条蓮の車はすでに走り去っていた。
彼女は道端に立ち尽くし、そよ風が吹き抜けると、一気に頭が冴えた。
ここ数日、不安と緊張でいっぱいで、いざという時は戦う覚悟もできていたし、頭の中でいくつものプランを用意し、あらゆる状況をシミュレーションしていた。
でも、こんな結末だけは想像していなかった。
仕事終わりから今までの短い間に、いつの間にか九条蓮と付き合うことを承諾していた。
しかも、それは“許可証付き”の交際だった。
…
九条家本邸。
九条蓮の車がガレージに入り、ずらりと並ぶ高級車の中に停まったが、その中でひときわ異彩を放っていた。
高橋美咲が代官山パークレジデンスを出てから、九条蓮も一人暮らしをしたくなくなり、九条家本邸に戻っていた。
九条家の大旦那様と大奥様が森川佳鈴のしたことを知った時は激怒した。しかし、森川佳鈴はすでに九条蓮によって処分されており、心優しい二人はそれ以上追及しなかった。
その後、森川さんも自分の非を認め、申し訳なさから辞職を申し出た。
だが、九条家の大旦那様は森川さんが長年九条家に尽くしてきたことを考え、実際には解雇せず、しばらくゆっくり休んで家のことをきちんと片付けるように言っただけだった。
九条蓮が家に入ると、九条凛がすぐに駆け寄ってきた。
「お兄ちゃん、美咲はどうだった?付き合うって返事してくれた?」
最近、九条蓮は高橋美咲に一切連絡せず、九条凛も彼女の前に顔を出す勇気がなかった。自分があの集まりに誘ったせいで美咲を巻き込んでしまい、少し罪悪感もあった。
九条蓮は彼女を一瞥し、「うん」とだけ答えた。
承諾はしたが、明らかにあまり乗り気ではなかった。
その言葉を聞いて、九条凛はようやく安堵の息をついた。とにかく承諾してくれたなら、それで十分だった。
すぐに何かを思い出し、少し拗ねたように言った。「美咲って本当にすごいよね。あんな家族がいるのに、私に一言も言わなかったなんて。隠し事が上手すぎるよ」
九条凛はすでに高橋美咲が高橋家の娘だと知っていたが、ずっと自分だけが知らされていなかったことに少し不満を感じていた。
自分は美咲の親友で、これからは義理の姉妹にもなるのに。
どうして自分にまで隠していたのか。
九条蓮の目が一瞬揺れた。「高橋家とは嫌なことがあったんだ。本人が話したくないなら、今後はその話題を出さないでやってくれ」
兄にたしなめられ、九条凛は渋々うなずいた。「わかったよ。知らなかったことにしておく」
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