Chapter 329
名家同士の縁談
この縁談を断る理由なんて、どこにもなかった。
佐伯葉月は「私、賛成する!」と言った。
桜井奈緒はオフィスの中を落ち着きなく行ったり来たりして、表情は深刻だった。
あと1週間でメゾン・ヴェルヌの新作発表会が開かれる。そして高橋家も直接出席する予定だ。
もし高橋家が現れたら、もう自分の正体を隠し通せなくなる!
どうしたらいいのか——。
しばらくして、オフィスのドアがノックされた。その音で、桜井奈緒の顔に浮かんでいた動揺がようやく消えた。気を取り直して「どうぞ」と声をかけた。
そう言ってから、桜井奈緒は席に戻り、腕を組んで座った。
入ってきたアシスタントの陽子を見て、「Queenとはまだ連絡が取れないの?彼女さえ来てくれれば、メゾン・ヴェルヌは一気に有名になれるのに」と尋ねた。
陽子は困った顔で小さく答えた。「桜井部長、こちらも手を尽くしていますが、まったく手がかりがありません。Queenは指輪を一組売った後、姿を消してしまいました。」
桜井奈緒は苛立ちで倒れそうだった。
最近は何一つうまくいかない。高橋家の長女探しも全く進展がなく、この謎のデザイナーQueenも見つからない。
新作発表会まであと5日もない。このままじゃどうしたらいいのか——。
本当はQueenを見つけて契約し、彼女を最大の切り札にして高橋家出現による危機を乗り切るつもりだった。
でも、どれだけ努力してもQueenは見つからない。焦りと不安で落ち着かないのも当然だった。
桜井奈緒の険しい表情を見て、陽子は機嫌が悪いのが分かった。
陽子は、桜井奈緒がQueenを探しているのは、新作発表会で彼女を招待し、メゾン・ヴェルヌのブランド力を一気に高めたいからだと察していた。
でもQueenが見つからないなら、どうしようもない。
少し迷ったあと、陽子は「桜井部長、Queenが無理なら、他の人を呼びましょう。彼女と同じくらいのレベルの人なら、効果もそれなりにあるはずです」と言った。
桜井奈緒は目を細めて陽子を見た。「他に誰がいるの?」
ジュエリー業界で有名なデザイナーは、Queen以外は他ブランドに所属していたり、自分のブランドを持っていたりする。
地位や実力が低い人を呼んでも意味がない。
Queenのように、姿を現すだけで話題になる人なんて他にいない。だからどうしても彼女を呼びたかった。
陽子は何か言いたげに口ごもった。
桜井奈緒はそれに気づき、「言いたいことがあるなら言いなさい」と促した。
陽子はもう迷わず、「桜井部長、いっそ偽の宣伝をしてはどうでしょうか。話題を作った後で、Queenは都合がつかなくなったと理由をつければいいんです」と言った。
この方法は決して褒められたものではないが、今必要なのは最初の話題性だ。後で多少非難されても、むしろ注目度が上がるだけで損はない。
それを聞いて、桜井奈緒は考え込んだ。
偽の宣伝か——。
しばらくして、何かを思いついたように、口元に計算高い笑みが浮かんだ。
桜井奈緒は「いいヒントをもらったわ。新しい作戦がある!」と言った。
陽子が「どんな作戦ですか?」と興味津々で尋ねた。
桜井奈緒はさらに満足そうに微笑み、「この件は心配しなくていいわ。とにかくQueenがメゾン・ヴェルヌに参加して新作発表会に出席するって、全力で宣伝して」とだけ伝えた。
「分かりました。すぐに手配します。」
陽子はそう言って、そのまま準備に出て行った。
高橋陽子が去った後、桜井奈緒は小さく鼻で笑った。得意げで軽蔑的な表情が浮かび、全身から新たな自信がみなぎっていた。
さっき、彼女は完璧な計画を思いついたのだ。東を攻めるふりをして西を突く作戦!
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