Chapter 31
九条社長に彼女がいるって本当?(続き)
でも、もっと気になるのは——社長に彼女がいるってこと!?
全員が真壁に詰め寄るような視線を向けたが、真壁は一切口を割る気配がない。きっぱりとした顔で「俺に聞かないでください。何も言いませんから」と言い切った。
その夜、九条蓮は仕事を終えてアパートに戻った。
ドアを開けると険しい表情のまま、高橋美咲に問いただすつもりだった。
ところが、部屋に入った瞬間、キッチンから食欲をそそる香りが漂ってきた。ドアを閉め、そのままキッチンへ向かう。
美咲はエプロン姿でキッチンに立ち、しなやかな腰のラインが際立っている。長い髪は無造作にまとめられ、どこか気だるげで柔らかな雰囲気を醸し出していた。
彼女は気配に気づいて振り返り、微笑んだ。「おかえり。もうすぐ夕飯できるよ。」
九条蓮は唇を引き結んだ。「今日、凛に会ったのか?」
「うん。どうして分かったの?」美咲は不思議そうに彼を見た。
自分からは何も言っていないのに、どうして彼が知っているのか全く分からなかった。
美咲の無邪気な表情を見て、九条蓮は心の中で小さく鼻を鳴らした。
彼は手に持っていた紙袋をカウンターに置いた。「これ、凛に届けさせたのは君か?」
美咲は不思議そうに袋を手に取り、中を覗いた。
一瞬、表情が固まり、気まずそうに言った。「あ……私、凛にこれを頼んでないよ。たぶん何か勘違いしたんじゃないかな。」
やっぱり美咲じゃなかったのか?
九条蓮は眉をひそめ、心の中の確信が少し揺らいだ。
しばらく沈黙した後、「何でもない」とだけ言った。
そう言って九条蓮は部屋に戻っていった。美咲はまだ少し呆然としていたが、さっき見たものを思い出し、思わずスマホを取り出して凛に電話をかけた。
しかし、相手は通話中の表示。
凛は誰と話しているのだろう?
その頃、部屋の中では九条蓮が凛に電話で怒っていた。
「兄さん、美咲との将来のためを思って言ってるんだよ。このままじゃダメだって。もし本当に問題があるなら、早めに病院で診てもらった方がいいよ?」
「黙れ!余計なことに首を突っ込むな!」九条蓮は歯を食いしばって言った。
自分の能力については、絶対の自信がある。
むしろ、能力がありすぎて、美咲が隣で寝ているだけで、何もしていないのに気持ちが収まらないくらいだ。
もしかしたら凛の言う通り、本当に薬でも飲んだ方がいいのかもしれない。変なことをしでかさないためにも。
九条蓮が部屋から出てきた時には、いつもの落ち着いた様子に戻っていた。
食事も普段通りだったが、その夜寝る時は、服を二枚余分に着込み、分厚い布団にくるまって、ようやく無事に一夜を過ごした。
翌日、九条蓮が出勤した後、高橋美咲は下絵を九条沙耶香に送った。
本格的な壁画制作は、デザインから下絵、空間全体のレイアウトまで、すべてを考慮しなければならず、決して簡単な仕事ではない。
ところが、九条沙耶香から「これからは九条悠真がこの壁画を担当する」と告げられた。
高橋美咲は仕方なく、九条悠真をブロックリストから外し、連絡を取って調整することにした。
彼女は自分のレリーフ壁画スタジオを持ち、どんな依頼も真剣に取り組んできた。今まで一度も悪い評価を受けたことがなく、今回も九条悠真のせいでつまずくわけにはいかなかった。
壁画アーティストは報酬が高いものの、業界自体の需要は少なく、常に注文があるわけではない。高橋美咲は一つ一つの仕事を全力で仕上げてきた。
たとえ相手が元恋人でも、決して引き下がるつもりはなかった。
高橋美咲が最初の下絵を九条悠真に送ると、「始めていい」と返事が来た。特に難癖をつけられることもなく、急に良心が芽生えたのかどうか、彼女には分からなかった。
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