Chapter 307
偽物を着ている方が恥をかく
周囲の令嬢たちは二人をじろじろ見て、隣同士で小声で囁き合い始めた。
「このドレスって、同じものが二着存在しないはずよね?」
「まさか誰かが偽物を着てるんじゃない?」
この世界では、もし誰かが偽物を着ていたら、その瞬間から仲間外れにされ、誰も相手にしなくなるのが常識だった。
吉田美玲は有名なデザイナーで、彼女のプライベートデザインは基本的に一点物。つまり、どちらかが偽物を着ていることになる!
九条凛は、高橋美咲を連れておしゃれさせてあげれば、地味な格好で笑われることもないだろうと思っていたのに、まさか森川佳鈴と全く同じ服を着ることになるとは思いもしなかった。
森川佳鈴が着ている方が偽物に決まってるでしょ?
これは面白すぎる。まだ何も仕掛けていないのに、森川佳鈴の方から勝手に自滅しに来て、しかも堂々と偽物を着ているなんて。
服が被ること自体は怖くない。偽物を着ている方こそ恥をかくのだ!
森川佳鈴は高橋美咲が現れたのを見て、最初は驚きの色を浮かべたが、同じドレスを着ていることに気づくと、みるみる顔色が青ざめ、心の中に動揺が広がった。
羽田穂香は目を細めて、「あの二人、どこの家の娘?今まで見たことないけど?」と尋ねた。
東京の令嬢たちの顔は全員知っているはずなのに、高橋美咲も九条凛も見覚えがなかったし、九条凛は滅多に顔を出さない上に、かなり派手な格好をしていた。
森川佳鈴はすでに落ち着きを取り戻していた。高橋美咲の素性については聞いたことがあった。
ただの一般人が、運良く九条蓮と結婚しただけの女。
森川佳鈴は高橋美咲を軽蔑するような目で見て、「あの二人はどこのお嬢様でもないわよ。一人はただの一般人、もう一人も同じでしょ」と言い放った。
森川佳鈴は羽田穂香に、高橋美咲が九条蓮の妻だとは絶対に言うつもりはなかった。
羽田穂香はすぐに納得したような顔をした。
「九条家のお嬢様」として森川佳鈴に取り入ろうと、今度は高橋美咲に矛先を向けることにした。
羽田穂香は冷笑を浮かべ、あからさまに嘲るような口調で「ふん、やっぱりね。こんな場で偽物なんて着てくるなんて、恥ずかしくて死にそうじゃない?やっぱり一般人はマナーも知らないのね!」と言った。
そう言うと、羽田穂香は礼儀も無視して高橋美咲のドレスの裾を掴み、さらに露骨に嫌悪感を示しながら「この生地、どう見ても偽物でしょ」と吐き捨てた。
森川佳鈴は最初、同じドレスを着ていることで周囲に気づかれるのを心配していたが、こうして味方が現れると、安堵の色を浮かべ、腕を組んで上機嫌で傍観していた。
今の自分は九条凛の立場。たとえ高橋美咲が本物を着ていたとしても、誰も信じないし、分かるはずもない。
悪いのは、彼女の身分なのだ。
森川佳鈴はわざとらしく「もしかしたら似たデザインかもしれないし、もうこれ以上追及しない方がいいわよ。揉め事になったら大変だし」と言った。
「似たデザインって何よ!どう見ても全く同じで、色味だけが違うじゃない。あなたのは鮮やかで、あっちはくすんでグレーっぽい。偽物丸出し!」
そう言い放つと、羽田穂香は高橋美咲のスカートの裾を勢いよく放り投げ、すぐにハンカチを取り出して、まるで汚れたかのように手を拭いた。
高橋美咲の表情は一気に冷たくなった。
このドレスはかなり丈が長いが、こんな風に引っ張られたら、少しでも油断すれば下着まで見えてしまうかもしれない。
羽田穂香は高橋美咲から向けられた視線に、なぜか背筋がぞくりとした。彼女には圧倒的な存在感があり、見下すような威厳すら感じた。
おかしい……ただの一般人で、何の後ろ盾もないはずなのに、どうしてこんなオーラがあるの?
You might also like




