Chapter 293
そんなに時間はかからない(続き)
高橋美咲は「急いでませんので、ゆっくり探してください」と返した。
九条智久のプレッシャーはさらに増した。今日は絶対にお茶っ葉を見つけなければ!
ほとんど家中をひっくり返す勢いで探したが、やはりお茶っ葉は見つからない。
九条智久は(おかしいな。森川さんは普段からお茶好きで、どこに行くにも水筒を持ち歩いてるのに、家にお茶がないはずがないんだが……)とつぶやいた。
とうとう九条蓮が見かねて立ち上がり、テレビの方へ歩いていった。そしてテレビ台の横の目立たない棚を開けると、やはり中にはいくつかの箱入りのお茶があった。
九条智久は呆然とした。森川さん、なんでこんなところにお茶っ葉をしまったんだ?
まったく、無駄に時間を使ってしまった。
でも、どうして九条蓮は知っていたんだろう?
九条絵美里はすぐに場を取り繕い、九条智久を責め始めた。「もう、お父さんったら自分でしまった場所も覚えてないんだから。うちの息子の方がよっぽどしっかりしてるわね。」
九条智久もすぐに愛想よく同調した。
すぐにお茶が淹れられ、九条智久は高橋美咲の前に湯呑みを差し出した。「蓮が突然結婚したって、何も聞かされてなかったから、旅行から帰ってきてびっくりしたよ。正直、かなり驚いた……」
高橋美咲の心臓がドキッとし、全身が一気に緊張した。
いよいよ始まるのか——
若い頃の九条智久もまた、ビジネスの世界で活躍していた。彼の表情が曇ると、途端に厳格さと威厳が漂う。
高橋美咲が緊張し、不安そうにしているのを見て、九条絵美里はすかさず九条智久に鋭い視線を送った。
その視線を受けて、九条智久はようやく表情を和らげ、「本当に驚いたんだ。ただ、君がどう考えているのか分からなくてね」と続けた。
高橋美咲は、家を出て行けと言われているわけではないと気づき、胸の緊張が少し和らいだ。
でも、なぜ自分の考えを聞かれるのだろう?何を思えばいいのか分からない。
高橋美咲が黙ったままでいると、九条絵美里が会話を引き継いだ。「実はね、お父さんが言いたいのは……私たちも最初は驚いたけど、でもお嫁さんができて本当に嬉しいのよ」
九条絵美里はそこで一度言葉を切り、高橋美咲に気持ちを落ち着ける時間を与えた。
そして続けた。「蓮は今まで一度も彼女を連れてきたことがなかったのに、まさか初めての女性がいきなり結婚相手になるなんてね。お父さんも私も本当に嬉しいの」
実のところ、九条絵美里がこれだけ言うのは一つだけ理由があった。高橋美咲に心理的な負担を感じさせないため、そして自分たちの立場をはっきり示すためだ。
高橋美咲に、自分たちは彼女をお嫁さんとしてとても満足していると伝えたかった。
九条智久と九条絵美里が自分に全く反対していないと知り、高橋美咲は内心少し嬉しくなった。
九条蓮の両親は、彼の叔母ほど扱いにくい人たちではなさそうだ。不満どころか、むしろ嬉しそうに見える。だからさっきまで自分に色々と話しかけてきたのだろう。
だが、すぐにまた不安がよぎった。
さっきの九条絵美里の言い方だと、まだ自分と九条蓮が離婚の準備をしていることは知らないようだ。
それに、二人がうっかり結婚したことも知らないのだろうか?
九条絵美里の嬉しそうな顔を見て、高橋美咲の胸は重くなった。きっと何も知らないのだろう。
これは本当に隠しておくべきことじゃない。
高橋美咲は慎重に言葉を選びながら、「実は、私たちもう……」と言いかけた。
だがその言葉を遮るように、隣の九条蓮が「美咲は本当に素敵な人だよ。きっと気に入ってもらえると思ってた」と話を引き取った。
高橋美咲「???」
九条蓮、何してるの!?
なぜ話を遮るの?今こそ離婚のことを伝えるべきじゃないの?
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