Chapter 291
義両親との対面
九条絵美里は高橋美咲の手を取り、優しく「着いたわよ。降りましょう」と言った。
高橋美咲はお茶に誘われるのかと思い、慌てて「奥様、私これから会社に戻らないといけないので、お宅には…」と断った。
高橋美咲の呼び方に、九条絵美里は不満そうに「奥様じゃなくて、お母さんって呼んでちょうだい」と言った。
そう言うと、九条絵美里は九条智久を引き寄せて「こっちはお父さんよ」と紹介した。
高橋美咲は固まった。「お父さん?お母さん?」と戸惑いながら尋ねた。
この二人、他人なのにやけに馴れ馴れしいと思ったら、まさか外で娘を名乗っているのかと驚いた。
九条絵美里は九条智久をつつきながら嬉しそうに「聞いた?お嫁さんが私たちのことお父さん、お母さんって呼んでくれたわ。なんていい子なの!」と言った。
えっ?お嫁さん??
高橋美咲は呆然とし、しばらく固まったまま「えっと…お二人は…?」と恐る恐る聞いた。
「私たちは蓮の両親よ、お嫁さん!」
なんと!この二人が九条蓮の両親、あの不仲だと噂されていたご両親だったのか!
高橋美咲は完全に度肝を抜かれた。何の前触れもなく、いきなり義両親と対面することになるなんて。
高橋美咲の衝撃に比べ、九条蓮はずっと落ち着いていた。何も言わず、ただ静かに後ろで成り行きを見守っていた。
九条絵美里は満面の笑みで高橋美咲の手を握り「お嫁さん、せっかく来たんだからお茶でも飲んでいきましょう」と言った。
そう言って、高橋美咲をそのまま上へと連れて行った。
高橋美咲は呆然としたまま、引っ張られるまま階段を上がった。
五階まで上がると、そこは古い町並みらしく、建物も年季が入っていた。階段の踊り場には時代を感じさせる雰囲気が漂い、どの家も大きな鉄の玄関扉があり、生活感があった。
一つの鉄扉の前に着くと、九条智久は入り口の植木鉢から鍵を取り出し、扉を開けた。
高橋美咲は気づけばすでに他人の家の中に入っていて、ようやく我に返った。
「お嫁さん、好きなところに座って。遠慮しないでね」
九条智久も「そうそう、どうぞ座って」と声をかけた。
「あの…」高橋美咲は九条蓮の方を振り返り、少し恨めしそうな目を向けた。どうしてさっき、この二人が両親だと教えてくれなかったのか。
これじゃまるで突然の顔合わせだ。もし自分の神経が図太くなければ、きっと卒倒していたかもしれない。
いきなり両親が現れて、もしここで小切手を渡されて「蓮と別れてくれ」なんて言われたらどうしよう。
…いや、さすがにそれはなさそうだけど。
道中のやりとりからして、九条蓮の両親は意外と話しやすくて、穏やかで礼儀正しい人たちだと感じた。叔母さんとは全然違う。
いや、それよりも大事なことがある。
今は離婚の話が進んでいる最中なのだ!
もしこのことが両親にバレたら、どんな修羅場になるかわからない。そう思うと不安でたまらなかった。
そう考えながら、高橋美咲は九条蓮に視線を送った。
早く何か言って、と目で訴えた。
九条蓮は玄関口で静かに立ったまま、高橋美咲の意味ありげな視線を受けても無視した。口元にはかすかな笑みが浮かび、瞳には優しさがあふれていた。
高橋美咲は、九条蓮がまったく動じていないのを見て、そっと彼のそばに寄った。九条蓮の隣にすり寄るようにして、小声で「ねえ、九条蓮、どういうこと?なんでご両親がここにいるの?」と尋ねた。
九条蓮は目線を落としたまま、淡々と答えた。「旅行に行ってて、今日帰ってきたんだ。だから迎えに行った。」
「そうなんだ。」どうりで九条蓮がスーツケースを2つ持っていたわけだ。
……いや、待って!
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