Chapter 290
本当に私と離婚したいの?
一番下に九条凛、その上に見知らぬ中年の男女が重なっている。突然現れた三人に、高橋美咲は思わず驚いた。
「痛っ!重いってば、早くどいてよ!」
三人は慌てて立ち上がり、九条智久と九条絵美里が起き上がると、ようやく九条凛も身動きが取れるようになった。
九条凛は気まずそうに笑い、「美咲」と声をかけた。
高橋美咲は九条凛を不思議そうに見て、「さっき九条蓮が、用事があるから帰るって言ってたけど、もう行かなくていいの?」と尋ねた。
九条凛の目に困惑が浮かぶ。いつ自分が帰るなんて言ったっけ?
後ろから九条蓮の視線を感じて、九条凛はすぐに察した。「あっ……うん、そうそう、帰るつもりだったんだけど、美咲がいるのを見かけたから、ちょっと挨拶しに来ただけ。じゃあ、もう行くね。」
そう言って、九条凛はしょんぼりと背を向けた。
せっかくの見ものも終わり。どうしていつも痛い目を見るのは自分なんだろう。
九条凛が九条智久と九条絵美里の前を通り過ぎるとき、二人に目配せをして、余計なことは言わないようにと合図した。
二人は安心させるような表情で彼女にうなずき返した。
それでようやく九条凛は心置きなくその場を離れた。
そのとき、部屋には九条智久と九条絵美里だけが残った。九条蓮は二人の年配者を見て、わずかに眉をひそめた。
高橋美咲の目には、彼の正体が運転手だと思われていることを、二人はまだ知らないのだろう。もうすぐ高橋美咲に本当の身分が知られてしまうかもしれない。
九条蓮は深く息をついた。
もういい。バレるならバレても仕方ない。これ以上悪くなることもないだろう。
真壁直人に二人を送らせようとしたそのとき、意外にも九条智久が自ら前に出て、九条蓮の肩を軽く叩きながら「大したことじゃない。お前が運転してくれ」と言った。
九条智久と九条絵美里は高橋美咲に興味津々で、もう少し一緒に過ごしたかったのだ。
二人はちょっとした作戦を立てていた。
九条蓮は高橋美咲を見て「先に両親を家まで送ってもいい?」と尋ねた。
「い、いいですよ」
本当は自分でタクシーに乗ってもよかったが、九条蓮が運転してくれるなら、もう少し一緒にいられる。
なぜか高橋美咲は本能的にうなずいてしまった。
九条蓮が自らハンドルを握った。高橋美咲が席を選ぶ間もなく、九条智久と九条絵美里が彼女を後部座席に引き入れた。二人の勢いに押されて、高橋美咲は半ば渋々後ろに座ることになった。
そのとき、九条智久がスマートフォンを取り出し、ナビアプリで住所を表示した。
「蓮、この場所わかるよな?」
九条智久の言葉に、九条蓮は画面を覗き込んだ。そこに表示されていたのは、古い町並みにある年季の入った住宅だった。
九条蓮の目に驚きがよぎり、九条智久を見上げた。
九条智久はウインクをした。
九条蓮はすぐに察した。九条凛がすでに二人に根回ししていて、今は自分に協力してくれているのだ。
九条蓮は九条智久の指定した住所へと車を走らせた。
車は安定した速度で道を進んでいく。
高橋美咲は後部座席で九条智久と九条絵美里に挟まれていたが、どこか妙な違和感を拭えなかった。
九条智久は前に、九条絵美里は隣に座り、まるで彼女が逃げ出さないように囲い込んでいるようだった。
この叔父さんと叔母さん、やたらと親しげすぎる。
道中ずっと、二人は高橋美咲に話しかけ続け、好みや趣味、細かいことまで根掘り葉掘り聞いてきて、まるで戸籍調査でもしているかのようだった。
高橋美咲は年配者の前では素直で礼儀正しいので、すべてにきちんと答えた。
やがてアパートに到着した。九条蓮は木陰の下に車を停め、シートベルトを外して車を降りた。
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