Chapter 286
九条蓮、交通事故に遭う
病院にて。
診察の結果、九条家の誰も大きな怪我はなかった。ただ、九条家の奥様は衝撃で車の側面にぶつかり、手に打撲や擦り傷を負ってしまった。
しかし、ぶつかった相手の家族はかなりの怪我を負っていた。奥さんは夫にすがりつき、息もできないほど激しく泣いていた。
今回の事故は完全に相手側の過失であり、真壁直人がすでに後処理や関連する手続きを進めていた。
その間、九条氏は奥様と一緒に救急外来に残り、九条蓮もそばにいた。
九条凛は怪我をした家族が去っていくのを見送りながら、目を細めた。ふと、大胆な考えが頭に浮かぶ。
九条蓮と高橋美咲は離婚を決意していたが、もう一度だけチャンスを試してみたかった。
もしうまくいけば、自分の功績は計り知れない。
そう思いながら、九条凛はスマホを取り出し、そっと隅の方へ歩いていった。
同じ頃、高橋美咲は九条インターナショナルで仕事をしていたが、九条凛から電話がかかってきた。「もしもし、九条さん、どうしたの?」
「美咲!大変なの!今、九条蓮と一緒に空港まで人を迎えに行ったんだけど、事故に遭っちゃって……今、病院にいるの……」
高橋美咲は九条蓮が事故に遭い、病院にいると聞いた瞬間、頭が真っ白になり、何も考えられなくなった。
その後、九条凛が何を話しているのか全く耳に入らなかった。
気づけば手が震えていた。
しばらくして、ようやくかすれた声で「どこにいるの?」と尋ねた。
「東京プライベート病院だよ。」
電話を切ると、高橋美咲は他のことなど気にしていられず、森川茉莉に「急用ができた」とだけ伝えてすぐに会社を出て、タクシーで病院へ向かった。
タクシーはすぐに来た。
高橋美咲の焦った様子が伝わったのか、運転手も急いでくれて、予定より10分も早く到着した。
支払いを済ませると、一瞬も迷わず病院へ駆け込んだ。
ロビーでは九条凛が待っていた。高橋美咲の姿を見つけると、口元にうっすらと笑みが浮かんだ。
やっぱり高橋美咲は冷たい人じゃない。兄の怪我を聞けば、必ず駆けつけてくると分かっていた。そして、こんなに早く来たのだから、どれほど心配していたか想像に難くない。
自分の思惑がバレないように、九条凛はすぐに笑みを消した。「美咲、来てくれたんだね。」
「九条さん、九条蓮はどこ?怪我は?重症じゃないよね?命に別状はないの?」高橋美咲は矢継ぎ早に問いかけた。自分でも気づかないほど声が震えていた。
その瞬間、高橋美咲は母が事故に遭った日を思い出していた。
あの時も、同じように無力で不安だった。もし九条蓮にも何かあったら、自分はどうすればいいのか。
高橋美咲の目は赤くなり、涙が今にもこぼれそうだった。本当に心配でたまらない様子だった。
九条凛は引き延ばすことなく、「救急外来にいるよ。案内するね」と言った。
そう言って、高橋美咲を救急外来へ連れて行った。
救急外来の中で、九条蓮は端の椅子に座っていた。医師は九条家の奥様の擦り傷を手当てしており、消毒液の痛みに奥様が声を上げると、九条氏が優しく抱きしめてなだめていた。
九条蓮は鼻梁をつまみ、思わぬ災難にため息をついた。
誰かを助けた時にスーツが血でびしょ濡れになり、すでに処分していた。
今は白いワイシャツだけだが、胸元には血が染みて乾き、まだ生々しい。
その時、突然救急外来のドアが開いた。
高橋美咲が現れ、すぐに九条蓮を見つけると、彼の血だらけの姿に今にも泣き出しそうになった。
「九条蓮!」と駆け寄る。
隣の九条家の奥様は目を見開き、驚きの表情を浮かべた。
こ、この子は……?
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