Chapter 272
嘘をついたのは本当(続き)
九条蓮は代官山パークレジデンスへと車を走らせた。二人とも道中一言も話さず、車内は気まずい空気に包まれていた。
二人が代官山パークレジデンスに戻った時には、すでに夜10時を回っていた。
高橋美咲はそのまま服を持ってバスルームへ向かい、九条蓮は外のソファに座った。彼女とちゃんと話す必要があると感じていた。
しばらくして、高橋美咲が部屋着に着替えてバスルームから出てくると、九条蓮がソファに座って待っているのが目に入った。
高橋美咲は少し考えた末、避けずにそのまま近づいた。「待ってたの?」
「話がしたい。」
きっと離婚の話だろう。九条蓮のおばには見下され、彼にも好かれていない。昨日もあんなに怒っていたし、今ごろは早く縁を切りたいと思っているはずだ。
高橋美咲の顔色が少し青ざめた。せめて少しは自分のプライドを守りたかった。二人続けて男に捨てられるなんて、絶対に嫌だった。
九条蓮が何か言う前に、彼女が先に切り出した。「もう考えた。離婚しよう。」
その言葉が出た瞬間、九条蓮の表情が一気に暗くなった。
高橋美咲の顔には固い殻が張り付き、決意を秘めた表情がゆっくりと浮かんだ。
彼女は低い声で言った。「私たちの結婚なんて、最初から冗談みたいなものだったわ。とにかく、今はまだ何も悪い結果にはなっていないし。あなたが言ってた契約違反のペナルティも、心配しなくていい。私は絶対に踏み倒したりしないから。できる限りの方法で、ちゃんと返すつもりよ。」
そう言い終えた高橋美咲は、まるで大きな災難を乗り越えたばかりのように、ひどく弱々しく見えた。
神様だけが知っている。こんな決断を下すのがどれほど辛かったか。でも、他に選択肢はなかった。
九条悠真と一緒にいた頃も、九条沙耶香には嫌われていた。
年長者に好かれない苦しさは、痛いほどよく分かっている。後で苦しむくらいなら、今のうちに終わらせた方がいい。
たしかに傷つくかもしれない。でも、長く続く痛みより、短い痛みの方がましだ。
そもそも、九条蓮と本当に付き合い始めたわけでもない。だから、何も失っていない。
九条蓮の顔が冷たくなり、問い詰めるように言った。「どうやって返すつもりだ? 相沢翔から借りるのか?」
実は、彼は少し怒っていた。高橋美咲は分かっているのだろうか。男に借金をするということは、それだけで大きな貸しを作ることになる。その後、その男はそれを口実に、何でも要求してくるかもしれないのに。
彼女は、誰もが自分と同じだと思っているのか?
相沢翔のような信用のない男が、彼女に情けをかけるはずがない!
高橋美咲は言った。「あなたが心配することじゃないわ。とにかく、お金は返すから。」
九条蓮の胸に、どうしようもない無力感がこみ上げてきた。
努力すれば高橋美咲を相沢翔から取り戻せると思っていた。でも、それは自分の幻想に過ぎなかった。
高橋美咲には、気持ちを変えるつもりなど全くなかった。
結局、彼女は自分の元を離れたいのだ。
さっきまで、彼は頭の中で色々と話すことを準備していた。叔母の無礼を謝って、許しを請いたかった。でも、高橋美咲は彼の説明など聞きたくもなかった。いきなり「別れたい」と言ったのだ。
高橋美咲は、やはり相沢翔の元へ戻ることを選んだ。
それなら、無理に引き止める意味はあるのか?
彼は全身に力を込め、心の中の感情を必死に抑え込んだ。しばらく沈黙した後、かすれた声で言った。「……分かった。約束する。」
そう言って、九条蓮は立ち上がり、そのままドアの外へ出ていった。
今回は、高橋美咲は昨夜のように彼を追いかけたりしなかった。ただソファに力なく座り、九条蓮がドアを閉めて出ていくのを、どうすることもできずに見送った。
You might also like




