Chapter 244
花束は九条蓮からだった(続き)
九条蓮は車の中からティッシュを取り出し、丁寧に美咲の手の汚れを拭き取った。美咲はうつむいてその様子を見つめ、胸の奥に温かさが広がると同時に、ますます自分のしたことを悔やんだ。
あの花束を断らなければよかったのに。
美咲の罪悪感と後悔の表情を見て、九条蓮の目が一瞬揺れた。
彼はエンジンをかけ、車を走らせた。
道中、美咲は珍しく黙り込んでいた。すると突然、九条蓮がハンドルを切って車を路肩に停め、ドアを開けて外に出た。
美咲は我に返り、驚いて窓の外を見た。
九条蓮の高くてすらりとした姿が、道端の花屋へ向かって歩いていく。美咲の瞳がわずかに見開かれ、胸の奥に不思議な感情が湧き上がった。
ほどなくして、九条蓮がバラの花束を手に戻ってきた。運転席に乗り込むと、高橋美咲にその花を差し出した。「これ、君に。」
「お店に残ってたのは、この花束だけだったんだ。」
目の前のバラは、今日の昼間にもらった花束ほど大きくもなく、鮮度も見た目も少し劣っていた。少し萎れているようにも見え、しばらく店頭に置かれていたのだろう。それでも高橋美咲の喜びは言葉にできないほどだった。
彼女は口元に小さな笑みを浮かべ、さっきまで感じていた落ち込みが、雨上がりの空のように一気に晴れた。
まさか九条蓮がまた自分に花を買ってくれるとは思っていなかった。
「ありがとう。本当に嬉しい。」高橋美咲は花束を大事そうに抱きしめ、まるで宝物のように手放そうとしなかった。
九条蓮は、今日の二人のすれ違いを思い返し、なんだか可笑しくもあり、微笑ましくも感じていた。高橋美咲の表情を見て、彼女は本当にちょっとしたことで満たされるんだなと思った。
たった一束の花で、こんなに満面の笑みを浮かべるなんて。
自分なら、高橋美咲にもっとたくさんのものを与えられる。
ふと、九条凛の言葉が頭をよぎった。「最初に一番いいものをあげておけば、いざ告白する時に効果倍増だよ。」まさか九条凛の助言がここまで役立つとは思わなかった。
その時、高橋美咲も腕の中の花を見つめながら、思いを巡らせていた。
普通、男性が女性に花を贈るのは特別な意味があるはず。どうして九条蓮は急に花をくれたんだろう?
もしかして、自分に気があるのかな?
それとも、特に意味はなくて、自分がスーツを贈ったお返しなのか?
高橋美咲は、以前九条蓮が話していたことを思い出し、まさか自分に好意があるなんて思い上がることはしなかった。すぐに、これはきっとお礼の品だと自分に言い聞かせた。服を贈ったことへの感謝の気持ちだと。
九条蓮は、高橋美咲の心の中がこんなにも混乱しているとは知らず、彼女が花をお礼の品だと思い込んでいることにも気づいていなかった。「気に入った?」と尋ねた。
「すごく気に入った。」高橋美咲はうなずいた。
「じゃあ、これから毎日花を贈るよ。」
高橋美咲「!!!」
こんなふうに誤解させるつもりなの!?毎日花をもらえるなんて、想像しただけで嬉しすぎて倒れそう。
九条蓮は、恩を受けたら倍にして返す主義なのかな?
高橋美咲が何か言う前に、九条蓮が続けた。「花じゃなくても、他のものでもいいよ。」
「他のもの?」高橋美咲は驚いたように彼を見て、疑わしげに尋ねた。「何をくれるつもりなの?」
「言ったらサプライズにならないだろ。」
その言葉を聞いて、高橋美咲は思わず笑ってしまった。まさか九条蓮までサプライズ好きだったとは。でも、次は何をくれるのか、ますます楽しみになった。
「今度は絶対に勘違いして断ったりしない。何をもらっても大切にするから!」と心から伝えた。
それを聞いて、九条蓮の口元がわずかにほころんだ。
ふいに高橋美咲が何かを思い出したように言った。「今日のお昼、会社の下で九条社長に会ったんだけど…」
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