Chapter 24
脳みそ、あるの?
九条家を手中に収めた後で、高橋美咲には十分な金を渡し、彼女と子どもが一生困らないように補償すればいい。
高橋美咲は九条蓮が何を考えているのか全く知らなかった。
彼が黙り込んだのを見て、不思議そうに尋ねた。「どうしてここに?九条蓮は出張中なんだから、九条家にいるべきじゃないの?」
「人を送ってきただけだ」九条蓮は表情を変えずに答えた。
「ああ、そういうこと」高橋美咲はうなずいた。
九条蓮は九条家の運転手だから、人の送迎をしていても何もおかしくない。九条インターナショナルに現れても不思議じゃない。
「もう大丈夫だから、私は先に帰るね」
「送る」
高橋美咲は断らず、九条インターナショナルの入口で九条蓮が車を出すのを待った。ほどなくして彼のフォルクスワーゲンが目の前に停まり、彼女はドアを開けて乗り込んだ。
2人が出発したちょうどその頃、九条悠真と桜井奈緒も病院から戻ってきた。
桜井奈緒は車の中にいる高橋美咲を見つけ、驚きの表情を浮かべた。運転席の男を見ようとした時には、すでに車は通り過ぎていた。
あの男、誰?
もしかして高橋美咲の彼氏?
まさか高橋美咲がこんなに早く新しい男を見つけるなんて。だから悠真のことなんて気にしてないふりをしてたのね。
桜井奈緒は鼻で笑った。高橋美咲の身分で、まともな男なんて見つかるはずがないのに。
車は順調に進み、高橋美咲は助手席に座って九条蓮をちらりと見た。
今日は白いワイシャツに黒いスラックス姿。シャツはあまり質が良くなさそうで、すでにかなりシワが寄っているのに、彼からは生まれつきの気品のようなものが漂っていた。
途中、高橋美咲がふいに言った。「スーパーに寄っていこう。食材を買って帰って晩ご飯作ろうよ」
九条蓮は断らず、車を方向転換した。
2人がスーパーに着くと、九条蓮が率先してカートを押し、高橋美咲はその隣に並んだ。
高橋美咲が手慣れた様子で生鮮コーナーを選んでいるのを見て、九条蓮は尋ねた。「普段から料理するのか?」
「うん」高橋美咲は顔を上げずに品定めを続けた。
節約のために自炊を覚え、それがいつの間にか習慣になっていた。
今は九条蓮と一緒に暮らしているし、仮の妻役とはいえ、ちゃんとやるべきだと思っている。
契約にも“妻としての義務を果たすこと”ってあったし。
料理もその一つに入るよね?
九条蓮の表情がわずかに曇る。本気で胃袋を掴もうとしているのか。しかし高橋美咲の料理が美味しいのは認めざるを得なかった。
彼女はただ、悠真に騙された愚かな女。それに関してはもう水に流すつもりだった。
だが、高橋美咲が冷蔵ケースからラムの腎臓のパックを手に取った瞬間、九条蓮の気分は一気にどん底まで沈んだ。
先日、秘書が「最近ちょっと元気なくて、ラムの腎臓買って彼女に喜んでもらおうと思ってる」なんて冗談を言っていたのを思い出したからだ。九条蓮はラムの腎臓が何のためのものか知っている。
高橋美咲は、自分のためにラムの腎臓を買うつもりなのか?
九条蓮が一歩前に出て、高橋美咲の手からそれをさっと奪い取った。眉をひそめて「何してるんだ!」と声を荒げる。
高橋美咲は少し戸惑いながら彼を見上げた。
ただ特売になっていたから手に取って見ていただけなのに、まるで大事件でも起こしたかのような九条蓮の反応に、なぜそこまで怒るのか分からなかった。
「どうしたの?これ食べるの嫌い?」
ふと、高橋美咲はラム肉の独特な匂いが苦手な人もいることを思い出した。九条蓮もそれが理由でこんなに怒っているのだろうか。
やっぱり他人と一緒に暮らすとなると、相手の好みや苦手なものをちゃんと把握しないといけない。自分はそのあたりが少し無神経だったと反省した。
高橋美咲は素直に謝った。「ごめん、嫌いだって知らなかった。」
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