Chapter 237
誰が彼女に花を贈ったのか
何人かが興味津々で集まってきた。入り口には宅配業者が立っていて、腕いっぱいに大きなバラの花束を抱えている。真っ赤なバラが彼の体の半分を覆い隠していた。
皆の目に、意味ありげな表情が浮かぶ。
まさか高橋美咲に花を贈る人がいるなんて、誰も思っていなかった。それだけで十分に羨ましがられる出来事だった。
高橋美咲は席に座ったまま、眉をひそめた。
誰がこの花を贈ったのだろう。
さっきの九条悠真の言葉がまた頭をよぎる。きっと彼が送ってきたに違いないと即座に決めつけ、少しの喜びも感じず、むしろその目立つ行動に苛立ちを覚えた。
九条悠真は謝りたいと言い続けているが、実際にはこうした行動で彼女を噂の的にし、メゾン・ヴェルヌの人たちの話題にしているだけだ。
桜井奈緒が知ったら、何をしでかすかわからない。
九条悠真は本当に頭がおかしいのだろうか。
そのとき、近くから小さなささやき声が聞こえてきた。
「誰が高橋美咲に花を贈ったと思う?」
「さあね。絶対に彼氏か、言い寄ってる誰かでしょ。」
「そういえば、九条インターナショナルのこのフロアに上がるにはカードキーが必要だよね。ここまで花を届けるなんて、誰かが通したってことじゃない?」
その言葉を聞いて、みんなの目つきが変わった。九条インターナショナルでそんなことができる人は、そう多くない。
しかも、高橋美咲は九条インターナショナルの上層部から突然送り込まれてきた人間だ。みんなの想像が膨らむのも無理はなかった。
柳小路の顔にはあからさまな軽蔑の色が浮かんだ。高橋美咲は男を何人も手玉に取るような女だ。あんなに同時に何人も相手にして、バレたらどうするつもりなんだろう。柳小路は、いずれ修羅場になったときに高橋美咲がどうするのか見てみたいと思っていた。
そんな話題の最中、配達員が「高橋美咲さん、お花のお受け取りをお願いします」と声をかけた。
高橋美咲の表情が曇り、冷たく「すみません、その花は受け取りません。持ち帰ってください」と言い放った。
もし九条悠真からの花だったら、なおさら受け取るわけにはいかない。
「でも……」と配達員が戸惑う。
高橋美咲は「御社では、受け取り拒否されたことが一度もないんですか?」と返した。
配達員はそれ以上何も言わず、花を持って立ち去った。
桜井奈緒の怒りが頂点に達したのを見て、近くにいた陽子は体をこわばらせ、もう一言も発せずにいた。
だが、桜井奈緒がこれほど怒っているのを見て、陽子は高橋美咲がこれから大変な目に遭うことを直感した。
それどころか、陽子は少しワクワクした気持ちでその成り行きを楽しみにしていた。
高橋美咲が以前、九条悠真の力を使って自分を懲らしめたことを思い出し、これは自業自得だと感じた。
これで高橋美咲も報いを受けることになる、と陽子は心の中で思った。
彼女は、これから何が起こるのか期待に胸を膨らませていた。
桜井奈緒の怒りが収まる気配はなく、オフィスの空気は一層張り詰めていった。
陽子は静かにその様子を見守りながら、次の展開を待っていた。
高橋美咲にとって、これが新たな試練の始まりになるのかもしれない。
陽子の心には、ほんの少しの優越感と期待が入り混じっていた。
オフィスの外では、同僚たちがまだ高橋美咲の話題で盛り上がっていた。
だが、陽子の関心はすでに桜井奈緒と高橋美咲の間に向けられていた。
水城圭介は自分のデスクにいた。真壁直人がしょんぼりした様子で戻ってくるのを見て、「また九条社長に怒られたのか?」と声をかけた。
真壁直人はため息をつき、「いや、今回は怒られたっていうより……」と口ごもった。
水城圭介は椅子を回して、「何があったんだ?」と促した。
真壁直人は小声で、「九条社長が高橋さんに花を贈ったんですが、高橋さんに断られちゃって……」と打ち明けた。
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