Chapter 235
私の部下は萎縮しなくていい(続き)
九条悠真は森川茉莉に「君から説明して」と促した。
九条悠真の言葉に、森川茉莉はこっそり高橋美咲を見たが、結局、今起きたことを正直に話した。
それはまさに、さきほど高橋美咲が推測した通りだった。
彼女は陽子と長谷川麗華が高橋美咲の陰口を叩いているのを聞き、あまりの怒りに思わず言い返した。すると、逆に二人から嘲笑されたのだ。
九条悠真は一通り聞き終えると、表情が一気に険しくなった。
彼は陽子と長谷川麗華を冷たく睨み、「うちの部署では、同僚の陰口は厳禁だ。今回は二人とも重い始末書、今月のボーナスも減額だ。次やったら、厳重に処分する!」と告げた。
高橋美咲は驚いた表情を浮かべた。なぜ九条悠真が急に自分をかばうのか分からなかった。彼はそんな親切な人間ではないはずだ。
むしろ、これまでなら追い打ちをかけてきてもおかしくない。
思わず九条悠真を見返すと、彼は温かく優しげな微笑みを返してきた。
高橋美咲は思わず身震いした。
その笑顔に、どこか背筋が寒くなるものを感じた。九条悠真は一体何を考えているのだろう。
一方、処分を受けた陽子と長谷川麗華は、さっきまでの傲慢さが嘘のように、顔色を真っ青にしてしょんぼりしていた。
九条悠真は「まだ仕事に戻らないのか?」と命じた。
陽子と長谷川麗華は、これ以上居られず、すぐに部屋を出て行った。
森川茉莉も一緒に退出した。当然、高橋美咲も九条悠真と二人きりになるのは避けたかったので、森川茉莉の後を追おうとした。だが、九条悠真が彼女の手首を掴んだ。「美咲、少し話せないかな?」
高橋美咲は全身で拒絶のオーラを放ち、「九条部長、私たちが話すことなんてありません。」と突き放した。
その呼び方には、はっきりとした距離感があった。
だが九条悠真は怯まず、なおも「この前、君はもう僕を許したって言ったよね?だったら、友達として話すこともできないの?」と食い下がった。
その言葉に、高橋美咲は思わず吐き気を覚えた。
誰があんたなんかと友達になりたいのよ!
これだけのことをしておいて、何事もなかったかのように友達になれると思うなんて、どこからその自信が湧いてくるのか。
高橋美咲は鼻で笑った。「私たちは友達じゃないし、あなたと話す気もありません。」
九条悠真は高橋美咲の態度にも、まったく怒りを見せなかった。相変わらず穏やかな表情のまま、柔らかく言った。「話さなくてもいいよ。ただ僕の話を聞いてくれればいい。本当に大事な話があるんだ。」
このまま手を引かれ続けていたら、明日にはメゾン・ヴェルヌで新たな噂が広まるだろう。高橋美咲は自分の手首を掴む彼の手を見下ろし、「まず離して」と言った。
九条悠真は高橋美咲の手を放した。
彼女は逃げるつもりなどなかった。ただ疑われないようにドアのそばに立ち、少し距離を取って九条悠真を見つめ、「もう話して」と促した。
九条悠真の整った顔に、わずかに申し訳なさそうな色が浮かび、悔しそうな口調で言った。「美咲、あの時のことは僕が悪かった。本当に傷つけるつもりなんてなかったんだ。毎日後悔して、自分を責めてる。ずっと前から謝りたかったんだ……」
高橋美咲は九条悠真の言葉を無表情で聞いていた。
もし、九条悠真と桜井奈緒のことを知ったあの時、彼がこんなふうに誠実に話してくれていたら、あんな風に小切手を投げつけるのではなく、もしかしたら彼をそこまで憎まずに済んだかもしれない。
だが今、同じ言葉を聞いても、心はまったく動かなかった。
気づかぬうちに、彼の居場所はもう心の中になかったのだ。
この瞬間の気持ちが、高橋美咲に九条蓮を本気で振り向かせたいという決意をさらに強くさせた。彼が欲しい——そう思った。
九条悠真の言葉は半分しか本心ではなかった。
You might also like




